幻燈

君は自由の身だ。泣いている場合ではない。 ―映画『スパルタカス』―

Spartacus ©Stanley Kubrick

ハリウッド黄金期の映画『スパルタカス』をときどき再見したくなるのは、「I’m Spartacus!」 の感動シーンより、奴隷商人バタイアタスと民主派の元老院議員グラッカス、この二人のふとっちょ(失礼)が交わす冷笑的かつ実践的な会話が目当てであったりします。

特にグラッカスの吐く台詞、ことごとく痛快で。

私は実利主義だ。たとえ貴族の身の上でも、罪人とも取引して、得るべきは得る。

誇りなど、飯の種にもならん。命を縮めるのがオチだ。

おまえに勇気を授けてやろう。ついでに50万セステルティウス(青銅貨)、くれてやる。

ローマ民主制の良心、グラックス兄弟がグラッカスのモデルですが、なんかもうこの映画では清濁併せ吞む怪人物として痛快無比に描かれています。

それでも、スパルタカスの妻と子を奴隷身分から解放してあげたときのグラッカスの言葉は、身が引き締まると同時に万感胸に迫って、たまりません。

君は自由の身だ。泣いている場合ではない。

バタイアタスはピーター・ユスティノフ、グラッカスはチャールズ・ロートン、どちらも英国俳優、これが味噌です。
イギリス人はほんとうに煮ても焼いても食えない、たいした、たまげた、連中です。

いやこれ最大級のhommageなのです、私からイギリス人への。

©Amazon

10代のころに読みふけった古代ローマの通史です。イタリア人は、その書くものも実にノリがいいです。五賢帝までは、面白くて面白くて。それ以降は筆が失速したように見えるのは、仕方ないです、実際にローマ帝国自体が萎んでいくので。

私は脅迫の言辞を弄するのは嫌いだが、実行するのは簡単だ。

上記、独裁官の称号を元老院へ要求した際のユリウス・カエサルの言葉。
これは、私には、政治におけるイギリス人のmentalityにかなり近いものがあると思えるのです。

ヨーロッパは、古代ローマの精神も礎としています。
いまはむかし、アルビオン(ブリテン島)も、ローマ帝国ではありました。