幻燈

あなたは単なる将軍、私は国王になる身だ。 ―映画『アラビアのロレンス』―

Lawrence of Arabia ©David Lean

好きな映画監督もうひとり、私の精神の父となったデヴィッド・リーン。
『逢びき』『旅情』『戦場にかける橋』『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』『ライアンの娘』、はずれなし。

とくに『アラビアのロレンス』は10代のころ、週に一度の頻度で繰り返し観ていました。そのsevereかつwitに富んだ台詞群に、のぼせていたのです。

イギリスの三枚舌外交、アラブとユダヤへ不義理を尽くし。そう、イギリスのしでかしたことは数百年単位で後を引いている。

ピーター・オトゥール演じる主人公トマス・エドワード・ロレンスの、怖いくらい青い眼と金属質に強ばった金髪と赤く火照った白皙の肌が、ロレンス曰く「清潔」な沙漠で異彩を放ち、これはまるで「羅針盤を求める船」のような男だと、私にはただただ不気味に思えたものです。

探検家と冒険家の違いは、前者が目標を持って行動するのに対し、後者は行動そのものが目標ということ、それではないでしょうか。

軍人ロレンスは先ず考古学者でありました。それもかなり優秀な考古学者。かのアレクサンドロス大王も文系理系双方に通じる学者の素質があり、軍人一辺倒でない者が戦闘に巻き起こす破壊力を私は検証したくなったものです。

さて、名言だらけのこの映画で私が最も感銘を受けた言葉は、ロレンスを見限った正統カリフ家の王子ファイサルが、イギリスのアレンビー将軍のあてこすりに、憮然と毅然と言い返した、それは見事なもの。

あなたは単なる将軍、私は国王になる身だ。

船は、羅針盤を求めるものではない。
手段と目的を履き違えた、そんな幽霊船など、沈めるの一択。

一方、母胎にあるときから既に羅針盤を抱えていたような、確固たる地位に生まれ育った王子。
守るべきものを堂々と担う、そんな立場の王子には、ロレンスつまり「沙漠の蜃気楼」など、瞑目すれば「なかったこと」で終わるのです。

それでも、営々とイギリスが残した禍根。
狼煙はいまも、くすぶったまま。

青い眼、金髪、白い肌、Fairの呪いにかかったまま。