かたたがえ

2023.4.3 卒業旅行 in 福井県 ―千古の家 曹洞宗大本山永平寺―

2023年4月3日、息子の小学校卒業旅行2日目。福井県の嶺北を旅しました。
旅の綿密な計画が順調に進むなか、思いがけない僥倖に辿り着けた、まさに奇遇が輝く一日となりました。

宿の部屋から大聖寺川を見降ろして。
これは、雪景色が最高でしょうね。

山中温泉は渓谷を縫うような温泉街。
加賀一の宮白山比咩神社から分かれた白山神社が川の両岸に点在します。

記念旅行なので、眺めの良い部屋を用意してくださったようで、感謝。

息子がひがし茶屋街で買ったお土産。
まんま金沢マグネット、意外と良い味。
金沢ご当地ゆるキャラのひゃくまんさま。

加賀八幡起き上がり人形に殿様髭、かわいいったらもう!
ひゃくまんさま、彦根のひこにゃんに負けぬ劣らぬ魅力。
「ひゃくまんさまに出逢えたことが金沢で一番の想い出」と息子。
ほんと、かわいすぎる、ひゃくまんさま。

待ってました旅館の朝ごはん。
おー、朝から盛りだくさん!

花籠の前菜、彩野菜と能登豚蒸し、洋風茶わん蒸しのフラン、永平寺の油揚げの味噌汁、源泉炊き白米、ヨーグルト。

ここのお宿はとにかくお食事がおいしい。
北陸は寒いですが、その代わりに地産の食材が甘やかされていなくて身が引き締まって、絶品です。

旅は毎度のことですが、来たときよりも美しくが私のモットー。
そんな几帳面でも神経質でもないですが、乱れた環境には耐えたくないので。

お世話になりました。
次は3年後です。

山中温泉街、6年前の息子の保育園卒園旅行のときに一通り巡ったので、今回はさらりと。
右手、観光拠点の山中座、週末には芸妓さんの舞が鑑賞できます。
左手に、総湯菊の湯の女風呂。

総湯菊の湯の男風呂。総湯とは、共同浴場のことです。
ほかに足湯もあります。

山中や菊は手折らじ湯のにほい

松尾芭蕉『奥の細道』

菅原神社や国分山医王寺を見上げ、この豊かな湯けむりの町を後に。
山中温泉、いつ訪ねても、あたたかい。

石川県から福井県に入って間もなく、枝垂桜が群れなすやたら美しい山間の景観に啞然としていますと、ある看板に目を奪われた主人がハンドルを左に切って横道に。
「県内最古の古民家やって」

古民家さておき、満開の桜の美しさよ。
こんなきれいな休憩所って!
福井県坂井市、枝垂桜の郷。

星が降るような。

時も止めそうな。

中世末期に建てられたとの坪川家住宅。
日本の中世っていつからいつまで? だいたい鎌倉から室町まで?
するってぇと、最古で500年くらい前?
ああ、古民家でそのレベルは凄いわ。

そもそも坪川家、北面の武士って! 
源三位頼政って! 鵺退治の!
つまり平安時代から続いてるんやないかい!

だから、千古の家なのか。

茅葺屋根の密度が濃い。みっちり毛が生えた柴犬みたい。もしくは弥生時代の家形埴輪。
どのみち、手入れが行き届いている。

千古の家、ここは予約制で飛び込みでは入れなかったのですが、玄関は閉められていなかったのでこっそり覗かせていただきました。

夢のような。
千古の家の横には、今が盛りの桜の森が。

誰もいない、我々3人以外に。

もったいないとしか思えない。

桜はただ咲いているだけ。

無心に。

「ママ、撮ってあげる」
息子、頼んだで。

「ママ、マスク取る?」
いいよ、メインは桜やもん。

主人の気まぐれがなければ、こんな見事な花見はなかった。
「おらたち、ここに呼ばれたよね」
いや、しらやまさんのお招きかな、やっぱり。

田んぼに隠れて見えませんが、坪川家には江戸時代作の回遊式庭園あり。
心の庭と祈りの庭、禅の教えでしょうか。
福井嶺北の隠れ里に、高度な思想と知性を基にした作庭が為されている。

この日の本来の目的地に通ずる。

奇遇ではなく、これも必然だったのか。

綺麗な山、冠岳?
こんな贅沢なお花見、初めて。
お名残り惜しい。

私は無神論者ですが、絶対的な感謝の念を受け止められるのは人知を超越したものしかない、そうは考えます。

ありがたい、と。

後で知ったのですが、ここは有名な花の名所なのです。
今日が月曜日の平日だったから貸切状態だったのかもしれません。
それにしても、幸運でした。

本日のメインイベント、曹洞宗大本山永平寺。

御開山道元禅師とこの私めには「潔癖」という共通項があると、無礼千万ながら子ども時分からずっと思っていました。
だから恩師を訪ねるかのごとく、懐かしさに胸躍らせながらの参拝。

実際、永平寺には赤ん坊のころに来ているはず。当然なんにも覚えていませんが。
父の郷が富山なので、通り道すがら、でしょう。

説明するまでもなく、永平寺は禅修行の道場。
お寺も開放的には作られておらず、回廊で外界と隔てられています。
イタリアはアッシジのサン・フランチェスコ修道院を思い出し。
どちらも回廊が「見えない壁」なのです。

「なぜだかお仕置きされてる気分」
息子の感想、わからないでもない。

仏道をならふといふは、自己をならふなり。
自己をならふといふは、自己をわするるなり。

『正法眼蔵』

昨日も思いました。
北陸の自然、とくに桜に、禅の精神を恵まれたと。

私が端的に物事を考えるようになったのも、道元禅師のおかげです。
余所見をするな。
ひとのせいにするな。
自分を、自分だけを振り返れ、と。

根雪です。
冬に北陸を訪ねる勇気、いつか奮い起こすべきでしょう。

禅の本場、中国に来た感じ。
こういう元を正すところがすばらしい。

「あーん、おらには厳しすぎる」
弱音を吐く息子を尻目に、次に永平寺を参拝するときには参禅修行しよう、そう決めました。

お斎は門前の手打ち蕎麦「あぜ川」。
絶対にこの店、と決めていました。なぜなら、呼び込みしないそうで、このお店。
禅の総本山、道元さんのお膝元でそんなことしたらあかん、と。

私と主人はおすすめの二食膳。おろしととろろ蕎麦に胡麻豆腐と香物。むっちゃくちゃ、美味!平べったい越前蕎麦、旨過ぎ!
主人も「これは大正解やで!」と驚嘆。

息子は温かい鰊蕎麦にしたのですが、そっちも目を剝くほど美味しかった!
「ママ、店選び、天才!」と息子。
本場の禅修行中の雲水に圧倒されて小さくなっていた息子、越前蕎麦で元気回復。現金なこと。

注文が通ってから調理するため時間がかかり、待っている間、カメムシの悪臭が私の鼻腔を刺激。
「なあ、カメムシ、いるよなあ?」
私の問いに主人も息子も首を横に振り。

不服な私、ふと背後を見渡しますと、私から3mほど離れた畳の上に、奴を発見。
「やっぱりカメムシいたやん!」
「有り得ん! どんな鼻してんねん!」
主人と息子、私の犬並みの嗅覚に仰天。

まあ、これも旅の想い出の一葉。

主人「ママ、鼻は超能力者やな」
息子「ママって野生児っていうか、運動嫌いな割に動体視力はいいし、蠅もゴキブリも迷わず瞬殺するし」

うるさいなあ、もう。

食後の息子、「しんぼうたまらん」とトイレを借りるために立ち寄ったギャラリー「寧波」さん。
このお店で運命の出逢いが……!

で、奈良までの帰路も混むこともなく、この旅は満願終了。

主人が永平寺門前の土産処で買った、まさかのレターラックと湯呑。
「コンセプトは修学旅行」との言。さすが昭和生まれ(私もですが)。
しかしレターラック、これが意外と重宝。
湯呑はなんと息子が気に入り、愛用中。

で、運命の出逢い。
それは千年の歴史を誇る越前焼。
左手のマグカップは主人が選んだもの。焔奏窯さん作のひよこカップ。確かにひよこっぽい。
右手は私が一目見て虜になった、実生窯さんのコーヒーカップ。

「奥さんがずっと見ておられる品の窯元、福井の窯元60件のなかで一番人気。焼いても焼いてもおっつかない。僕も愛用してます、割れても金継ぎして」
寧波のご主人、そう私に仰いました。

旅とは出逢い。
実生窯さんのコーヒーカップ、福井の白い土で作られた粉引。
私は恐竜の卵みたいな土物が大好き。

実生窯の窯元は月に一度、工房で作品展を開催されます。
主人も実生窯さんの酒器を見て、作品展に行きたいと願っています。
私は言うまでもない。
我が家の食器すべて実生窯さんのお品にしてもいいくらい。

まさに、めぐり逢った。

永平寺のお土産。
オールマイティの御守と職守。
わかりやすい道元禅師の教えの本。
そして、とっても良い匂いのお香。杉や檜の深く澄んだ香り。

永平寺にいるみたい。
いつでも北陸の旅を思い出せる。
人生でも屈指の名旅行となりました。