
24歳の冬、1か月だけ過ごしたイタリア半島、3日だけ過ごしたローマの街、欧州屈指の名門ローマ・サピエンツァ大学の最寄り、あこがれにあこがれたボルジア家のチェーザレとルクレツィアの兄妹が生まれ育った邸宅へと続く、その名もボルジアの階段Scalinata dei Borgiaを目指し、歩きに歩いた。
ボルジアの階段、そこで、私は、それまで撮り溜めたネガフィルムをまとめた袋を紛失していたことに気がついた。
そこで私は思い知ったわけで、写真では何も記憶できないという、当然を。
私の瞼、私の脳裏、私の胸の奥、光と闇に吸われるように時代の覇者として生きて死んだ美しいこと極まりない兄と妹の残像が刻まれてしまったというわけで。
烙印として――
――聖痕として。


