2023年10月14日、今日は一年半ぶりに、明日香村サイクリング。
石舞台古墳前の風舞台からスタート。
私たちの前に自転車をレンタルした二人のBOYSは群馬県から来たとのこと。
「近場からごめんなさい」と私が言うと、レンタサイクルの店員さん「同じ明日香村とか橿原市とか、もっと近くから来る人もいますから」とフォローしてくださいました。
今日は午後から雨模様。なので奥明日香の入り口、稲渕の棚田まで一足飛び。
自転車で明日香村を巡るのは、最高に気持ちがいい!
明日香村はどこもかしこもおすすめですが、飛鳥川の源流を辿る道のりが、私はベストだと思います。
男綱。飛鳥川源流の男渕に棲む男性龍神のシンボル。
ここから、南渕山の神奈備の郷に入ります。結界の中に入るということ、つまり神域へ。
ほんとうの明日香村は、ここから奥に隠されている!
龍福寺で一服。彼岸花はほんの少しの群れでも、目に留まります。
花は美しく無心に咲き、人心を清らかにする。
まさに。
関西大学飛鳥文化研究所。人界は、ここまで。
水の神の郷へ、いざ!
自動車では見落としてしまう、このささやかな一双の滝。
ここが、昨年春に我々の視界を奪った、水の神域。
この水面一面に、木漏れ日と翅虫が鏤められ、有り得ないほど目映い光景が繰り広げられたのです。
ここは普段からこんなにも美しい。
自転車や徒歩でじっくりと眺めてほしい、飛鳥川の祭祀場。
飛鳥川上坐宇須多岐比売命神社。川上、ここは既に、飛鳥川の上流ということ。
南渕山を神奈備とするこの水の女神の社の眼下には飛鳥川、そこでは臼滝、つまり龍がとぐろを巻くように渦を巻いているそうです。
臼も渦も、女性のシンボルです。
私、ここのお宮さんは大好きなのです。しかし、ここの石段、私、子どもの頃から、心の底から、怖い。
高所恐怖症も理由の一つですが、ここの石段、背中から何かに鷲掴まれて、飛鳥川へ引きずり落されるような錯覚をいだくのです。
だからといって、途中で引き返したらもっとアカンことになるとも思わせる、振り返っても、同じく。
ちなみに私は霊感はゼロどころかマイナスで、99%がなにがしかの霊体験をした場合でも、私はしない側の1%に常に入ります。
しかし、私、動物の勘はべらぼうに働くのです。
迂闊に近寄ってはいけない場所に、私は絶対に近寄らない。
だから私は基本的に夜は出歩かないのです。
夜は人間の世界ではないから。
ああ、怖い、ほんまに怖い、冷や汗だくだくや。
私が勝手に柔道界最強の男と見なしている大野将平さんは、このお宮のこの峻険な石段を何往復もするという、地獄の訓練を行っていました。
やはり最強の男はちがう、こんな垂直の石段を走って上り下りするとは。
心身ともに強健な人、大尊敬です。
スロープまで辿り着いてようやく、人心地。
改めて、緑の美しいお宮さんです。
拝殿、すんごい高いところにあると思うのですが、実はそうでもない。
一息で登らせるということに、意義があるのかもしれません。
建物は拝殿のみ。大神神社の三輪山と同じく、こちらも後方の南淵山が御神体なので本殿を設けていません。
拝殿、自然に溶け合ってしまいそうで、それはそれで良いかもと思えてしまいます。
この神庭(かんにわ)さえあれば。
この郷の神にきちんと名乗りを上げてお参りをしたので、堂々と走ることができます。
自動車ではほぼ気づけない、一双の滝、ここにも。かわいらしい。ささやかでも滝は滝。
女神様、いたるところにおわっしゃる。
福石が見えてきた。栢森(かやのもり)に入りました。
背後には、南渕山。
はー。美しい。
春の桜がなくとも、女綱の結界ひとつの姿で既に。
女綱、飛鳥川源流の女渕に棲む女性龍神のシンボル。
稲渕の男綱と一対です。
昨年春と同じ場所で、息子、成長の記録。
あのときは身長がやっとこ160㎝だったのに、今は170㎝を優に超えました。
橋を渡り、飛鳥川の中から女綱を撮らせていただきました。
ああ、きれい、シンプルで、最高。
こんな優しい流れなのです、ここの飛鳥川。
向かって右は高取町で、この山は高取城に通じています。殿様の下山道で、奥明日香のこっち側から登ったほうがラクちんとのこと。
加夜奈留美命神社、奥明日香へ来たら必ずここにもお参り。
少し道に迷っていたら、村の方がお声がけくださいました。
明日香村の人、みんな親切です。
お宮に隣接しているお寺、龍福寺。ここも、龍福寺。
老木の百日紅(さるすべり)のために築地塀も考慮して作られたのですね!
なんて優しい配慮。
カヤナルミ、かわいい名前。ウスタキヒメの娘さんに当たります。
諸説芬々の神様ではありますが、飛鳥の土地神様であることで、私は納得しています。
ほんとうは、このお宮の横の道を突き進んで、女渕と男渕まで巡ろうと思っていました。
しかし、数日前から、イヤな予感がしていたのです。理由はわかりません。ただ、今回は飛鳥川の源流まで行ってはいけないと、虫の知らせのような感覚にずっと囚われていました。
すると、天気予報で10月14日の午後から奈良県北部の天気は崩れると。
これが決定打でした。
やはり行ってはいけないのだと、今は。
だから駆け足の自転車旅になったのです。
でも、水の神様にはきちんとお参りできました。
さて、予約を入れていた御食事処へ。
奥明日香さららさん。
昨年は三時のおやつ時に訪れました。今回は念願かなって、お食事を。
予約時間は11時30分でしたが、朝にメールで「今日は雨模様なので、早くきてもらって、ゆっくりしてもらって大丈夫」とご連絡いただき、11時10分に到着して甘えさせていただきました。
女将さん手作りのパッチワーク。飛鳥大仏です。すてき。
左右のモチーフ、軒丸瓦です。
女将さんに「瓦ってわかってもらえて、うれしいわ」と。
お食事、これが、もう、びっくり仰天のおいしさ!
黒米ご飯、唐辛子の煮びたし、野菜たっぷりお味噌汁、掻き揚げ、茄子の味噌和え、高野豆腐煮、煮豚、どれもこれも、唸るくらい美味しくて、我々全員「うま!」「おいしいいッ……!」と一口ごとに叫んでしまいました。
ランチのデザートは生姜の寒天。これも、目が覚めるほど美味しかった!
紅茶も丁寧に淹れられていて、なんでもっと早くにこちらでごはんをたべなかったのかと、悔やまれました。
「今年食べた料理でいちばん美味しかったです」と私。
「もう、そこまで言うてもらえたら、ほんまありがたいわ!」と女将さん。
「もっと早くに来て、ごはん食べておけば良かったです」
「それがね、今月からしばらく、お食事も民泊もおやすみさせていただくことにしたんやわ」
「え、でも、今日、ごはん食べさせていただいた」
「それは、去年も来てもらって、今年も是非にって言うてくれはったから」
「うわ、ありがとうございます」
「またメールくれはったら、土日はお食事用意するわ」
「うれしい! 必ずまた来ます!」
さららさん、しばらく冬休み。
でも、こそっと、食べに行かさせていただきます。
民泊も、春には再開されるかな。
そしたら、泊まらせていただこう。
今日、奥明日香に来られて、ほんとうに良かった。
さららさん、感謝します。
栢森の郷を惜しんで。
しかしこの後、事件が。
先頭を走っていた主人、不意に、何か喚きながら自転車を停めて、100mほど後方の我々を手招きしました。
気でもちがったのかと思いました。主人はとても穏やかな人で、こんな取り乱すことなんてなかったので。
私と息子が急いで自転車を走らせますと、主人「鹿! 鹿! もんのすごい角はやした、でーっかい鹿が、山を駆け上がっていった!」と。
「あんな角、見たことない」と。
主人が指を差したほう、そこは、まさかの、うすたきひめ神社でした。
あ、ヌシを見た、この人。
私は茫然とですが、そう思いました。
主人は私が今まで出会ってきた人々の中で、最も信用のおける人間です。
愚痴も悪口も絶対に言わない主人、もちろん嘘はつきません。
主人は実は今、岐路にありまして、まさかのその時期にこんなことに遭遇するのは、きっと主人の幸先を示すことだと思わずにいられませんでした。
「パパ、シシガミ様に会ったんやね」と息子。
私、いえ我々家族はもう、この奥明日香の水の神には一生頭が上がらない、そう清々しく観念しました。
稲渕の棚田。うーつくしー!
棚田は、案内札がある見所より、少し手前のほうが綺麗だと私は思います。
雨が降るギリギリまで走りたいと息子。
飛鳥の中央を駆け足で。
ここは川原寺跡。
金色に実った稲穂の向こう、橘寺。
なんてすばらしい秋の風景。
「ぼん、また来たんか」
「亀石に会いたかってん」
亀石、彼岸花を小脇に。
秋ですね。
山の中腹、岡寺の塔が見えます。
雲は雨を孕み灰色、山は青く、稲は金色、草はとこしえの緑。
絵心をくすぐられます。
橘寺の西の石の門。
この木、金木犀だったのか。
背後の森と木と門と手前の岩が絶妙の配置で、見入ってしまいました。
金木犀、すーごく良い香り!
稲穂も見事で、秋の豊かさが五感に沁みます。
ああ、これは日本人のみならず、世界中の人々からも「ふるさと」と見なされるかもしれない懐かしさ。
飛鳥、まほろば。