ならだより

2021.12.19 雪の詩 宇陀松山城下町

2021年12月19日、出向いたのは大和高原南端の宇陀市の大宇陀。
桜井から大宇陀に入ったとたん、山道は雪景色。大宇陀温泉あきののゆも、この通り。

あきののゆのお食事処、改装休業中。急遽、道の駅「宇陀路大宇陀」のお食事処でにゅうめんと柿の葉寿司を食べた後、腹ごなしに宇陀松山城下町を散策することに。
宇陀市松山地区「まちかどラボ」で資料をたくさんもらい、散策スタート。

まちづくり松山センター「千軒舎」。もとは薬屋兼歯科医院、明治時代前期建築、内藤家住宅。

大宇陀の資料が展示されています。堅繋格子戸、うつくしい。

宇陀松山城についての映像資料、奈良大学文学部文化財学科教授の千田嘉博先生が制作に携わっておられ。

う、息子、でっか。身長の伸び具合、主人に迫る勢い。

小堀遠州が城割役を仰せつかった宇陀松山城。城割とは、城を壊すの意。
なるほどね、築庭の草分けとして、土木のノウハウを駆使するわけだ。

ここらは平野部なので雪は治まり、ちらほら霰が降っています。

宇陀市宇陀松山会館。もと町役場で、明治後期の建物。

晴れたり吹雪いたり、面妖な空模様です。

宇陀松山についての説明看板。

宇陀松山城についての説明看板。

ここでも、千田先生の映像資料が放映されていました。

大宇陀といえば、森野吉野葛本舗。吉野葛の製造元の老舗ですが、本邦の薬学の先駆けが本分。

森野吉野葛本舗 | 【吉野葛の販売・通販・お取り寄せ・卸売・レシピのご案内】
森野吉野葛本舗のオフィシャルサイト。奈良県宇陀市。吉野葛の卸販売、通販、葛の館、茶房葛味庵などのご案内。

写っていませんが、この道を挟んで向かい側には、東大寺門前に支店のある黒川本家。こちらが本店となります。
黒川本家、うちの息子の大好物の吉野本葛の老舗。

森野旧薬園。日本最古の薬草園。薬の町、大宇陀の脳のような場所。
店主さんに薬園の入場をお頼みしますと、「今日はおかしな天気なので足元にお気をつけてください」との言。
薬園、そんなデンジャラスなの?

門をくぐり抜けると、吉野本葛を製造する撹拌層。葛ももちろん、薬草です。

あれ? もしかして、山に登る?

このアプローチまでが、平地でございましたとさ。

ううッ、道が雪で濡れて、これは確かに気を張らないと!

「パパ、ママ今日は遅いね」
「ママ、山姥なんやけどな」
山靴なんか用意していないので、スニーカーの野郎どもに置いてけぼりを喰らい。

ああ、でも、なんてうつくしい雪景色。
阿騎野の里山が雪で薄化粧され、その清澄さに感動しました。

雪深い北国の方々にしてみれば、これしきの淡雪で浮かれる奈良県民は噴飯物でしょうが。

正面の山は、音羽山でしょうか。つまり、あの山並の向こうは桜井市、多武峰。
大宇陀、意外と飛鳥からも近いのです。

阿騎野での狩猟は、野禽からの妙薬の採取も意味しました。
身近な神仙郷だったのでしょう、万葉びとにとって宇陀の地は。

足元が滑るなか必死で登ったので、薬草はこれしか撮影できませんでした。
実葛、整髪料の原料でしたので、和歌ではイケメンの代名詞でもあり。

筒咲きの白椿の大木。花の少ない冬の季節、椿は救いのように灯ります。

誕生した季節でもあって、私は冬を嫌いではありません。ひとり静かに自らを省みる、そんな冬の季節は、寧ろ好きです。

ひとりで井戸を掘るように好きなものに夢中になれ。私にそう教えてくれた「韋駄天おまさ」こと白洲正子氏も、この薬草園を訪れ、命の水湧く無限の地下水脈のひとすじに、ぶちあたることが叶ったのだと。

日本の自然ほど多くのものが含まれているものはない。その中には宗教も、美術も、歴史も、文学も、潜在している。

白洲正子

今は命を大切にすることより、酒でも遊びでも恋愛でもよい、命がけで何かを実行してみることだ。
そのときはじめて命の尊さと、この世のはかなさを実感するだろう。

白洲正子

大宇陀の銘菓、きみごろも。手提げ袋が真っ黄色で可愛い。大宇陀のお土産は、やはりこちらで。

きみごろも本舗 松月堂
奈良県大宇陀の和菓子店・きみごろも本舗 松月堂のオフィシャルサイトです

屋号のabcは、アーベーセーとフランス語で読む。
ふらり歩いて目に留まった、素朴でおしゃれな古民家カフェ。ランチもご提供されているとは。
わー、お昼ご飯、ここ来れば良かったかな。

Just a moment...

あんまりにも素敵なカフェなので、覗かせてもらいました。
シンプルでシックなお菓子の陳列。パティスリーでもあるんですね。

フランスで修業された奥様お手製の焼き菓子やピザやキッシュ。
私はデコレーションされたものより、素焼きのお菓子が好きで、心臓のど真ん中を射抜かれました。

「地元の栗を餡にして作ったパイ、いかがですか、お薦めです」とご亭主。
私は食に関して素直なので、もちろん買わせていただきました。そもそも、栗は私の大好物。

他にも、主人はフィナンシェを、息子はフルーツパウンドケーキを、私はクリームチーズブラウニーとハーブクッキーを買いました。

帰宅して食べたところ、どれも、飛び上がるくらいおいしかった!
これは、是非ネットショップでも買わせていただこうと思います。

外装ももちろん、内装も素敵なので、ご亭主に撮影をご依頼しましたら、「店の外からも写真撮ってくださっていて、うれしいなぁと思って見てました。どうぞお好きなだけ撮ってくださいね」と、ご亭主から許可を得、撮る撮る。
素朴で粋というのは、私の最も好む様式なのです。

ご亭主、とても良い方でした。次は、こちらでランチを食べますね。

家族写真も撮っていただきました。同じ奈良県内、地元といえば地元ですが、ちょっとした小旅行でもあり、観光客気分。

私、5㎝ヒールの靴を履いています。つまり、実質、息子のほうが背は高い。
想い出の写真になりました。
ありがとうございます。

「今日は珍しく吹雪いて、おかしな天気でした。でも、楽しんで訪れていただいて、とてもうれしい日でした。また来てくださいね」とご亭主。

我々は嵐を呼ぶ家族かもしれない。私の髪も吹雪で舞いあがっています。

奈良の東北部の山間の城下町に、慎ましくも上質なParisがある。
大宇陀を訪れる楽しみが、またひとつ増えました。

大宇陀の酒蔵、久保本家酒造。主人は「大和のどぶ」という銘柄の辛口のにごり酒を買いました。
「こんなん要りませんわ」と消費税分のお金を受け取られなかった、女将さんらしきご婦人、商売っ気がまったくなく、それが反って好感を持てました。

久保本家酒造

なんだよ、その腑抜けた顔。

帰り道、三輪山。しばし山間にいたので、平地は「とつくに」の肌触り。

私の視点が鈍っているからか、のっぺり写ってしまう、見慣れた箸墓。

きみごろも。唯一無二のお菓子。
「あれ? こんなおいしかったっけ?」と息子。
どれどれと、私もご相伴。ほんまや、昔より甘さ控えめかも。今風で、すごく食べやすくなっていて、おいしい、昔より。
どうやら伝統も、日進月歩のようです。

この日の夜からずっと、雪の詩を、紐解いて編んでいました。
おりこうさんですやすや眠っていた赤ちゃんのころから見知っている、心を尽くして懸命に歌う、ただただ可愛い健気なひとが、雪と一緒に舞って、行ってしまった。
それからずっと。

雪がはげしく ふりつづける
雪の白さを こらえながら

欺きやすい 雪の白さ
誰もが信じる 雪の白さ
信じられている雪は せつない

どこに 純白な心など あろう
どこに 汚れぬ雪など あろう

雪がはげしく ふりつづける
うわべの白さで 輝きながら
うわべの白さを こらえながら

雪は 汚れぬものとして
いつまでも白いものとして
空の高みに生まれたのだ
その悲しみを どうふらそう

雪はひとたび ふりはじめると
あとからあとから ふりつづく
雪の汚れを かくすため

純白を 花びらのように かさねていって
あとからあとから かさねていって
雪の汚れを かくすため

雪がはげしく ふりつづける
雪はおのれを どうしたら
欺かないで生きられるだろう
それが もはや
みずからの手に負えなくなってしまったかのように
雪ははげしく ふりつづける

雪の上に 雪が
その上から 雪が
たとえようのない 重さで
音もなく かさなっていく
かさねられていく
かさなってゆく かさねられてゆく

吉野弘『雪の日に (合唱曲用)』

Water, is taught by thirst.
Land — by the Oceans passed.
Transport — by throe —
Peace — by its battles told —
Love, by Memorial Mold —
Birds, by the Snow.

Emily Dickinson
“Water, is taught by thirst.”

水は、渇きに教わる。
陸は――渡ってきた海に。
法悦は――苦しみに――
平和は――語り伝えられた戦いに――
愛は、追悼の銘に――
鳥は、雪に。

エミリ・ディキンソン『水は、渇きに教わる。』

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

三好達治『雪』