ならだより

2019.4.28 室生寺 大和の東を護る龍

2019年4月28日、大和の東の山の奥、室生寺へ。新緑のうつくしいこと、うつくしいこと。
ここへ来ると私の心は土門拳、下手は合点承知、カメラのシャッターを切りまくります。

本当はお参りを済ませてからでしょうが到着したのが午後2時と遅く、おなかぺこぺこでしたので、室生寺門前の旅館「橋本屋」で山菜料理をぱくついてしまいました。

ここは先述の写真家土門拳氏の定宿。大和の情緒風情に富んだ料理旅館です。
私も室生寺へお参りするときは必ずここの山菜料理を口に運びます。

胡麻豆腐、酢の物、煮物、田楽、白和え、大和芋、とろろ汁、天魚、やっぱりどれも素材が良くて、自然の恵みの有難さを味わえます。
精進料理に通じるお食事は、おなかいっぱいになりますが、胃もたれは無縁です。

橋本屋の目のまえ、室生寺の太鼓橋。

ふりかえると、橋本屋。
橋を渡る、川を越えるとは異なる世界へ向かうこと。

室生寺。石楠花の石段。なんてやさしいおもざしの石段なのか。
どっこい、実際に登ると石がごつごつして、けっこう手強いのです。

金堂。特別拝観期間で、国宝の十一面観音菩薩立像を間近で拝観できました。

ものごころつかないほど幼いころから何度目にしてきたのか。
しかし、毎回見るたび、初見の新鮮さに居住まいを正されます。

十一面観音、限りなく本尊に近い脇持仏。
女人高野だけに、女性的と謳われてもいますが、私はこの十一面観音を女性的と思ったことは一度もない、です。
これは少年、天才少年、聖徳太子像に似通う、目覚めた者の厳しさをまとう者、です。

いつもいつもこの水神の移し身の菩薩には、滝に打たれる気分になります。

本堂。

金堂。

弥勒堂。

五重塔。
この近く、伝北畠親房の墓所、雷に打たれて割れた杉の大木があり。
そのすさまじい傷痕からこの地がどんなに瀟洒な塔や淑やかな花々に彩られ女人高野と謳われようとも、雷鳴と稲妻に貫かれる水神の室(むろ)である事実、思い知らされました。

とはいえども、石楠花のすきとおるようなうつくしさ。

私は白い花が好きですが、石楠花はやはりこの薄紅色が花の色の代名詞でしょうか。

石段のふもと、薄茶のお手前。室生寺の紋を象った干菓子。葵の御紋と、徳川綱吉の母桂昌院の家紋、九目結紋(ここのつめゆいもん)。
茶碗は鯉幟の絵柄で、これは息子に合わせてくださいました。
お茶も干菓子もおいしかった、300円だなんて、びっくりお値打ち。

室生寺には何度も来ているくせに、名物の「もりもと」の草餅は食べたことがありませんでした。
ちょっと並ばないといけないので、敬遠していました。

今日は出足が遅れたので、反ってお食事も拝観もスムーズに運び、もりもとの草餅も5分待てば買えました。

焼いたほうが粒餡。そのままが漉し餡。両方買って食べ比べ。

……お、い、し、い……!

私は草餅が好物でいたるところで草餅を食べてきましたが、ここの草餅がいちばん、おいしい!
餅が溶けそうにやわらかくて、餡は甘すぎず、蓬が香る香る!
うわー、今まで損したー!
何回も何回もこの店の前、通ってきたのに!

いや、馴染みのつもりでもまだまだ何にも知りません。草餅ひとつで、自分の無知を教わりました。

もりもとの草餅、粒餡も漉し餡もおいしいですが、私の好みは焼いたほう、粒餡です。その場で出来立てを食べるのがベストです。

おいしいものを食べて、うつくしい自然と深い歴史に触れて、私の平成はこうして幕を引くのです。
いやいや、令和の幕開けも、私は草餅をむにむに食べているはずです。

草餅ひとつで、私はしあわせ。
大和の東を守る龍、もとは猿沢池に住まっていたのが、緑に満ち満ちたこの地に移って、それはそれはしあわせな日々を過ごしているような。