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2019.3.9 中日は一心(いっしん)で

2019年3月9日、スクーリング2日目、狐が跳ねる晴天。何しろ私は晴れ女。

奈良盆地北辺、平城山から下ツ道を南下。ここは橿原市の藤原宮跡。
西の青い山並み、畝傍山、金剛葛城山脈、二上山、私の産土。
私には当たり前の風景も、遠近(おちこち)より訪ねてこられた方々には、まさに眷恋の地、ヤマト。
うん、遠足として参加すると、見慣れた産土も、いつもとちがった風景に見えてきました。

藤原京の京終、初めて意識しました。
橿原市から明日香村と桜井市にまで、一辺5.3km四方って、ひえっ、なんぼほどひろいねん!
深澤先生の実地に根差した説明は、毛穴から細胞へ浸透します。

深澤先生が毎日通われた奈良文化財研究所藤原宮跡資料室。
いっつも飛鳥に行くたび、その存在は目端に入るのですが、まともに立ち寄ったのは記憶も定かでないくらい前、です。
びっくりした、すばらしい施設でした。

大伴旅人が平城京遷都を迎えた藤原京最後の元旦、隼人を率いて行進した場所も、深澤先生はほぼ掴んでいる、と。
そんなこと、現場で聞くと、ゾクッとしました。
隼人の楯の音が地面から律動して聞こえてきそうで。

藤原京、「専制君主」持統天皇、その夢の跡。
今は雲雀が鳴く草野原です。

午後からは、桜井市の大神神社へ。
大神神社、正式には三輪明神。私は「みわさん」と呼んでいます。
三輪の地元の方々は「明神さん」と呼ぶそうです。

奈良大学出身の先輩、権禰宜の山田先生が大神神社での我々の講師を務めてくださいました。
山田先生と深澤先生が談話中の頭上、三輪山を霞めるかの、すごい雲。

――龍や――

私、唖然。

なおも、拝殿の前の注連縄、ここでいきなりFMラジオのイヤフォンがラジオの本体ごと石段におっこち、バチバチッと爆ぜる音を私の鼓膜にぶつけました。
私、とびあがりました。
耳に雷が落ちたかと思いました。

今日は一体全体どうした!?
私は霊感なんかマイナス40度のシベリアなのに。

とにかく平身低頭、注連縄をくぐりました。

巳の神杉。みいさん(白蛇)のお住まい。お酒と玉子が供えられています。
ちなみに、私の実家の天井裏にも、みいさんが住まっていました。
白い小さな蛇で、私が最後に目にしたと思います。

山田先生に「私の実家近くの葛城市の長尾神社は龍の尾、私が生まれた産院近くの大和高田市の龍王宮は龍の胴、そして桜井市の大神神社は龍の頭と言われています。大和平野の東西に横たわる龍。まさにドラゴンクエストです。しかし、蛇を龍と一緒にするのは、どうなのでしょう?」と私は問いました。
山田先生のお答えは「この三輪山の神域で、龍を感じた、目にしたと仰る方は、いらっしゃいます」でした。
私は、さっき見た雲を思い出しました。

「山田先生、ありがとうございました。うちの息子はこちらで初宮をお祝いしていただきました。おかげで健康に育っております」
「それはぜひ、次の機会に息子さんともどもお参りください」
私は山田先生に名前を訊ねられたので名を名乗り、それから拝殿にご挨拶をしました。

「あ、息子に子持ち勾玉、買ったげよう」
翡翠の子持ち勾玉を買いました。石の冷たさは、気持ちをなだめます。
龍に呑まれたような昼下がりでした。

山田先生は、御神体の三輪山への登山を、わざわざと推奨されてはいませんでした。
私は、三輪の地元の方にも「物見遊山で登る山やないで」と言われていましたので、登るとしたら何か覚悟の上で、と決めています。

青緑はイスラームの色。回は回教徒の意味。
これら、イスラーム教徒に向けた看板です。豚肉つかってないよ、の意味。

遠足の最後は天理市の博物館、天理参考館。深澤先生の仰ったとおり、膨大な作品群です。
この潤沢な雰囲気、信楽のミホミュージアムに似ています。
こちらもあちらも、資金源が宗教団体だからでしょうか。

まあ、イデアはこの際どうでもいい。一般へ還元する精神、それが尊い。

かわいいなあ、まるで天使です。新羅の迦陵頻伽の瓦です。
もっとかわいい、悪魔のような迦陵頻伽の瓦も撮影したのですが、ピンボケ。掲載不可、です。

この唐三彩はピンボケではありません。もとから淡い、あえかな顔立ちです。
私は博物館美術館へ行くと、「これが欲しい」との目線で作品を見ます。
駆け足で眺めた天理参考館で私が最も心ひかれたのは、この、えもいえぬ青緑の衣の女性。
つれてかえりたい。

トルファンから大谷探検隊が持ち帰った伏羲と女媧。古代中国の創造神です。
これはレプリカですが、天理参考館、すごい収集力。

深澤先生もごくごく普通にシルクロード諸国の話をされます。
私もこのあたりは必死のぱっちで勉強したので、すらすら呑みこめました。

勉強って、楽しい。
この定規とコンパスを持って睦みあう兄妹神の絵。
この一幅にどれほどの物語が籠められているか、わかるのですから。

一心不乱で勉強したシルクロード学。
楽しかった、苦しかったけど。いや、苦しかったけど、やはり、楽しかった。
兄妹神はつがいの蛇のように、あざなえる禍福の縄のように、西域への情熱を、焚きつけます。

こんな充実した遠足、二度とない旅でした。