幻燈

全てを燃やして月を見ていた

智内兄助『春挽糸』 ⒸGoogle

私は25歳のとき、良性腫瘍の卵巣嚢腫に罹り、即日入院、緊急手術となりました。そのとき、私の下腹部を破裂寸前まで膨らませていた水と脂にくるまれて、いくつかの歯のかけらと髪の毛のひとかたまりが、まろびでてきたのです。

つまり、それは、卵巣性テラトーマ、奇形腫だったのです。

手塚治虫先生の名作『ブラックジャック』のピノコ、それが私のおなかのなかにもいたというわけです。

婦人科の主治医は「瓊花さんがお母さんのおなかのなかで細胞分裂を繰り返していたころ、歯と髪の細胞が卵巣の細胞に同化した」と仰っていました。しかし、のちに知人の外科医師により「奇形腫からVanishingTwinの可能性を看過するのもどうかと思う」と示唆され、そちらのほうがよほど腑に落ちたものでした。

「たとえ瓊花さんが双子だったとして、母胎で死んでしまった片割れを吸収したとしても、何も気にすることはないよ」

双子吸収そのものについて気にはしてはいませんが、物心つかないころから、自分には人として壊滅的に欠損している何かがある、そうは理解が利いていました。

米津玄師 - 月を見ていた Kenshi Yonezu - Tsuki Wo Miteita / Moongazing
「FINAL FANTASY XVI」THEME SONGKENSHI YONEZUTsuki Wo Miteita - MoongazingListen here and Lyrics, Produced by Kenshi Yonezu...
: 全てを燃やして月を見ていた

月の美しい秋になると、どうしようにもない感傷に襲われる夜があり、たまらなくなるのです。

もうひとりの私はなぜ生きられなかったのか。

なぜ私は生きているのか。

――たまらなくなる――

何かを求めて月を見ていた
嵐に怯えるわたしの前に
現れたのがあなたでよかった
まるで何もかもがなかったかのように
この火は消えたりしない きっと

全てを燃やして月を見ていた
誰かがそれを憐れむとしても
あなたがいれば幸せだったんだ
およそ正しくなどなかったとしても
消えたりしない

『月を見ていた』作詞作曲:米津玄師