書架

古代の絶対王者の真の姿 ―倉本一宏 里中満智子『古代史から読み解く「日本」のかたち』―

ⒸAmazon

この小体な書物は、私にとって日本古代史上において最も腑に落ちない謎をすうっと消化させるものでした。
白村江(はくすきのえ・はくそんこう)の戦い。
なぜこんな当時ですら先の読めた負け戦に加担したのか日本は、と、私は子どものころから不思議に思っていました。梅原猛先生も、藤原鎌足の外交能力を、くそみそにこきおろしておられました。
なにより、因習を忌み嫌ったあの中大兄皇子が、義理人情で対外戦争なんてハイリスクを負うのだろうか、と。

ここで倉本先生の説が活きてきます。
要約すれば、「裁兵」の一言です。
この言葉を目にしたとき、私は、「中国の御家芸だ」と息をのみました。
「これは、鎌足の入れ知恵だ」と。

戦の最前線に捨て駒として、旧勢力の諸豪族の軍を並べ、やむなく殲滅させ、邪魔者が消え失せた朝廷で何不自由なくその後の遷都へ舵を切る。

いやあ、すごい。
いや、むごい。
血も涙もない。
これが古代の絶対王者の真の姿です。
なんだか久しぶりに歴史の厳しさに触れて、カッと目が覚めました。

倉本先生、いみじくもおっしゃる、「中大兄が蘇我入鹿を殺したのは、何もしなければ自分が殺されるから、どちらが先にやるかという問題だった」と。
先手を打つ。
文化財学講読Ⅱのスクーリングで講師の深澤先生もおっしゃっていました。

人間が何度でもまちがえることを知っている人は、何も知らない人より賢いと言えるのです。

倉本一宏

現実の残酷さから、現実の真実を学ぶ。