幻燈

秋の蝉 春の雪

春の雪 Ⓒ行定勲

竹内結子さんは、奈良の飛鳥を舞台にしたドラマの和菓子職人役がとても印象深く、地元民はこぞって「あんな綺麗で可愛らしい子が奈良をアピールしてくれるやなんて、うれしいわあ」と喜んでいました。

ほんとうに、美しさと愛らしさ、強さと儚さ、明るさと静けさ、釣り合う天秤に魅力を溢れかえらせた女優さんでした。

春の雪 Ⓒ行定勲

2020年9月27日、彼女が亡くなった昨日、私が道で拾ったのは空蝉、蝉の抜け殻でした。
秋の蝉。
それは春に降る雪のような。
私は空蝉を梔子の木の根元にうずめました。

来年の夏の始まり、薫り高い白い花のようだった彼女を思い出すために。

今、夢を見ていた。
又、会うぜ。
きっと会う。
滝の下で。

三島由紀夫『豊饒の海 第一巻 春の雪』
春の雪 Ⓒ行定勲

逝ってしまった人へ手向ける言葉として、なぜこんな遥かな海の光景を心に想い浮かべてしまったのかは、自分でもよくわかりません。

男のけしき男のしぐさの一つびとつに、海のすがたを賭ていたのかもしれぬ。

三島由紀夫『花ざかりの森』