2023年4月2日から1泊2日で、息子の小学校卒業旅行へ出かけました。
初日は石川県、加賀一の宮白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)参拝と、金沢の兼六園とひがし茶屋街へ。
6年前の保育園卒園旅行でも石川県と福井県を訪れました。
そのときのメインは、福井県立恐竜博物館。今回再訪のつもりだったのですが、なんと夏までリニューアル工事中で見送らざるを得ず。
12歳の息子も6歳の頃に比べて恐竜熱はだいぶ下がっていることもあり、今回の旅は北陸神仏巡礼となりました。
朝6時に奈良県を出発、琵琶湖東岸に沿って北上、9時30分に石川県の尼御前SA到着。
滋賀から北陸への道は渋滞なく、とてもスムーズでした。
素晴らしい晴天ですが、風が強い!
ここまで寝っぱなしの息子、一気に目が覚めた様子。
この時期、関西の桜は散りかけ。
北陸の桜は満開で、幸甚です。
桜の向こう、日本海が見渡せます。
尼御前岬、義経一行の一員の尼僧が、自分は足手まといになるからと身投げした海です。
伝説に因縁つけたくないですが静御前といい尼御前といい、源義経からは女を見捨てて当たり前のmachismo男性優位主義が芬々と臭います。
何も死なせることはないでしょう。
それなら最初から置いていけ、です。
よしんばそれが女みずから進めた戦勝祈願の、神仏への供御としての投身自殺だとしても、そもそも敗走に非戦闘員を引き入れた軍略家に、私は一抹の未来も見出せません。
何も伝説に目くじら立てなくても。
いいえ、「伝説」とは噓八百ではなく、その伝説を負った者への「世論」です。
世論は、看過すべきものではない。
能美市の平野。
わー、白山(はくさん)、見えた!
6年ぶり、相変わらずお美しい!
手取川、白山比咩神社の参道と見做してよろしいでしょうか。
満開の桜並木がこれまた最高。
北陸は地味が良いのでしょうね、大ぶりの桜がどこでも咲いています。
道の駅しらやまさん。
情報棟の白山市観光情報センター。
私はエフェメラ集めに夢中。
地質学や地形学を主旨に白山を訪れる人も多いのでしょう。
登山やサイクリング目当ての方はもちろんたくさんいらっしゃいました。
情報棟、大きなロッジ。
ロフトの展望台へ。
獅子吼高原と安久濤(あくど)の淵。
水が絶えることのないこの川縁に、1480年まで白山本宮が営まれていた。
しらやまさん、水の女神ですね。
主人と息子、まったり。「むちゃくちゃいいとこやね」と。
そうなんだよねえ、天気が良くて、明るくて、しらやまさんに歓迎されているのかも。
「ママ、神社さん、川の向こう?」
「そだよ」
「しらやまさん、義経と弁慶もお参りしたって」
そう振り返ると、奥州も近い。
この道の駅の駐車場、東北ナンバーの自動車も少なくなかった。
奈良から遠くへ来た。
一挙に感慨無量。
白山比咩神社の門前、絶対に訪れたかった食事処、山菜川魚料理「りんどう」。
巨大なスピーカーからチェロの音色が流れていて。
バッハの無伴奏だと思います。
開店10分前にお店について、開店と同時に入店。
ぞくぞく来客、でもどういうわけだか私たち以外のお客さんはどなたも座敷席を選ばず、テーブル席が空くまで入り口の腰掛や店の外でwaitingされ。
ここ、注文が通ってから川魚にも炊き込みご飯にも火を入れるので、席に着いてからもかなり時間がかかる。
なのに、待つ?
座敷、空いてるのに?
たまたまかもしれませんが、北陸の方はそんなにも座敷での起居がつらいのでしょうか。
不思議でした。
生簀には生きた川魚が泳いで。
白山の渓流で捕れた川魚、しらやまさんのお下がりです。
さっきまで生きていた岩魚、囲炉裏で丁寧に炭で焼かれて、こんなん、おいしくないわけがない。
常連になったら、リムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』をリクエスト。
ストラヴィンスキーの『火の鳥』も。
もちろんラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』は外せない。
私はロシアの曲が好きなのです。
だから、つらいんだよ。
「パパ、お酒はまだアカンで」
「わかってます」
楽しく待つこと30分。旬のおまかせ定食が来ました。
懐石料理並みに豊富なお品! これで1,500円って、いいの?
あ、岩魚は別注です。
春は山菜が一番おいしい季節。
吹き寄せ、高野豆腐煮、厚揚煮、豆腐の煮浸し、山葵、キャベツ和え、炊き込みご飯、沢庵、味噌汁、どれも絶品でした。
煮物は味付けがすべて異なり、ご飯や沢庵や味噌汁も自家製で、どれもとんでもなく美味でした。
冗談抜きで、これで1,500円って安過ぎます。
盛り付けも美しく、真心が籠っています。
ああ、この旅の成功は約束されたものだと、最初に訪れたこの食事処で既に確信を持てました。
岩魚も見目好く焼かれて。激ウマで唸ってしまいました。
骨も頭も尻尾も食べきり、皿には何も残りませんでした。
夏には鮎が白山からお下がりされる。
主人が「夏も来ようかな」と。
私と息子、大喜び!
「ママって、いいお店見つけるの、天才だよね」と息子。
まあね。
私は旅の下調べが大好きだもの。
実のところ、旅はその最中より計画を立てているときのほうが楽しい。
旅は貴重な休暇と軍資金を費やす。
前もって防げるべき失敗なら、防ぐべき。
「パパって旅行の計画立てないよね」
「黙ってママについていって正解なんで」
旅のschemeはすべて私が担っています。
その代わり、主人は一貫して自動車の運転をこなしてくれます。
主人の運転技術は素晴らしいので。
The right person in the right place.
Okay guys, follow me !!
りんどうさん、ごちそうさまでした。
人生で訪れた食事処で五指に入ります。
ご亭主もお運びのお姉さんたちもとってもあたたかい方たちで、もともと好きでしたがすっかり北陸の虜になってしまいました。
りんどうさんからすぐ、加賀一の宮白山比咩神社。
おみくじ結び処、兼六園の雪吊り。
わー、石川県に来たってしみじみ。
雪吊りから恐る恐る離れる息子。
息子は信貴山朝護孫子寺でおっそろしい思いを味わって以来、おみくじを引かなくなりました。
主人は元来おみくじは引きません。結果に左右されるのがイヤだから。
なかなか堅実な理由です。
逆に、信じてるってことですか。
私はといえば、2022年の夏の旅で訪れた日本総鎮守大三島神社で得た「国の為を為せ」とのお告げ以来、おみくじ引く気がとんと失せました。
私は宗教心も信仰心も皆無ですが、「おまえは私心なく生きるべき者」なんて念を押されたらもう、それ以上の約束は要らないな、と。
すこぶる付きの好天。
冷たくない風が始終吹き渡り、気持ちいいのなんの。
境内の杉木立、明るくて爽やか。
しらやまさん、本当に良いところ。
綺麗な加賀友禅姿の母娘。
七五三の前撮りだそう。
桜が満開の時期で、晴天で、最高の撮影日和ですね。
獅子吼高原と満開の桜並木。
実は、こちらは北側の入口。
南側からの参拝が一般的なのですが、地元の方や小さいお子さん連れの方は北側から参拝されるそう。
道理で拝殿と本殿にすぐ着いたはず。
実は我々は予定上、午後には金沢に入らなければならず、白山に長居できなかったのです。
りんどうさんの駐車場の加減で、道に出るにはハンドルを右に切らずを得ず、それで反って早い参拝を叶えられたよう。
しらやまさん、お見通しなのでしょう。
息子の後ろ、土産処「くろゆりの里」。
こちらで白山の銘酒、菊姫を購入。
すぐ近くの蔵元は日曜定休、だからこちらで購入できて幸運でした。
菊姫といえば、山廃。
土産処のお姉さんもとても親切で、やっぱり山廃を勧められました。
北陸の人って、いい人ばかり。
主人、ほくほくと純米山廃を購入。
しらやまさんのお下がりの御守。
この時期限定のさくら守、白山比咩神社の杉で作られています。
主人は仕事守、息子は護身刀守。
御守はカード型がいいですね、お財布に入れられるので。
あと、帰宅してから知ったのですが、しらやまさんのおみくじの内容、かーなーり、厳しいお達しだそう。
例えば、「今の相手が不幸の素」など、夫婦恋人連れは頭をぶん殴られるような衝撃のお告げが当然のように出る、と。
あ、おみくじ、引かなくて大正解。
金沢市街に入りました。
兼六園の桜、もんのすごく、きーれーい!!
桜がちょうど満開で、兼六園はたくさんの人いきれ。
我々は車の中から観桜会。
さすが日本三名園。
手入れの行き届いた桜です。
ひー!
綺麗過ぎて発狂しそう!
「後で写真見せて!」
主人が運転席から叫ぶ。
「すんごい綺麗!」
息子もスマホで写真を撮りまくる。
ひーえー!
こりゃ女神様やで!
「ママ、窓から落ちる!」と息子。
んなわけねーっつーの。
確かに私、桜に魅せられ、窓から乗り出す勢いですが。
「ママじゃなくてスマホが」と息子。
ああ、私より桜の写真が大切なのね、フン!
お名残り惜しい!
でも、たっぷりと楽しませていただきましたよ、花盛りの桜姫たち。
本当に本当に良い時期に金沢へ来させていただきました。
ありがたい。
金沢といえば、ひがし茶屋街。
国内外の観光客がいっぱい。
いや、海外客のほうが多いかも。
息子は人混みが苦手。
だんだん不機嫌に。
「ママ、おら、ここから出たい」
「あんたが金沢行きたいって言ったのに」
加賀麩専門店「不室屋」ひがし茶屋街支店。
ここでお土産を買ったのですが、あまりおすすめできません、接客が。
老舗なのに、残念でした。
麩はおいしかったので、尚更。
これがこの旅の唯一の汚点でした。
息子の機嫌は不室屋で撃沈。
人混みを避けて裏通りへ進むと、たいへん落ち着いたお店を発見。
カフェギャラリー「三味(しゃみ)」。
私、自分の勘を信じ、息子を引きずり、お店に飛び込みました。
三味さんがもう、大正解のお店。
春はお雛様でおもてなし、おばあちゃんのおうちがconceptだそう。
飾り過ぎず、畏まってもおらず、品が良くて懐深い設えにうっとり。
私の祖母も古い家を居住まい正しく管理していたので、懐かしくなり。
主人はコーヒーと黒糖ゼリー。
こちらのデザートはすべて添加物なしの自家製。
「ゼリー、うっまー」と主人唸る。
息子は抹茶ミルクとチーズケーキ。
「おいしい、ほっとする」との言。
良かったね、静かなお店で。
私は温かいコーヒーぜんざい。
これ、看板メニューで、お店のお姉さんのおすすめ。
私はおすすめにめっぽう弱い。
でもって、これが、げっきうま!
ぜんざいにコーヒー、出会い物、めちゃくちゃおいしかった!
お店のお姉さん、「でしょ?」って微笑んでおられました。
息子がすっかりご機嫌になって。
まあね、私だって人混みは苦手。
大阪city boyの主人も耐性はあれどもやはり人混みは好きではない。
町家造りって、いいなあ。
三味さんとの遭遇は旅の計算外。
偶然は綿密な計画の中で、光る。
「金沢、好きなままでいられたよ、このお店のおかげで」と息子。
めでたしめでたし。
お菓子屋の百番屋さんで、金沢はちまんさんの顔出し。
はちまんさんは、金沢の郷土玩具、加賀八幡起き上がり人形のこと。
私、京都より金沢のほうが、好きかも。
金沢からは、我慢強さ、武家文化の克己心がにじむので。
「金沢また来たい」と息子。
6年前の保育園卒園旅行では、兼六園と金沢21世紀美術館に行ったのです。
そして、香林坊をうろうろ。
私には兼六園の辺り、少し奈良公園に似ている気がしました。
私の父は富山の出身で、私もごく幼いころ、金沢に立ち寄ったようです。
だからこの町が懐かしいのでしょう。
息子の背の高さは隔世遺伝かも、私の父は180㎝あったので。
加賀から一路、山中温泉へ。
白山は鮮明に撮るのが難しい。目視では白は美しく感じ取れるのに。
白って、色というより光だから、捕えにくいのかも。
道中、桜がどこでも咲いていて。
人がいなくても桜は美しく咲いていて、もったいないくらいで。
西陽に桜、なんて美しいのか。
健気なほど。
誰かに見られるために桜は咲いているわけではない。
桜の無欲さに道元禅師の教えがこみあがって。
仏道をならふといふは、自己をならふなり。
『正法眼蔵』
自己をならふといふは、自己をわするるなり。
山中温泉に到着。
ここは6年前にも泊まった旅館。
鎌倉時代創業800年の老舗ですが、我々が泊まれるレベルののんびりとした温泉宿です。
姿見チェック。
息子「ママ、雪女みたい」
私、ムカッ。
私「浴衣姿、あほぼんみたい」
息子、ムカッ。
けれどこの後、息子「あほぼん、温泉行きます」と。
お、自分で言うか。
「あほぼんやで~」と連呼する息子。
気に入ってるんや、あほぼん。
ひとっ風呂浴びて、夕食。
ここのご飯、とてもおいしいのです。
6年前に食べた治部煮、忘れられない。
特別メニュー3つの中から、息子は姿ズワイ蟹を選びました。
思えば、息子が蟹を覚えたのは6年前のこの旅館の夕食。
主人は和牛ステーキ、私はのどぐろ姿焼きをチョイス。
金沢といえば、のどぐろ。
きぇー! 白身なのに濃厚、おいしいのなんの!
「ママ、焼き魚でいいの?」と息子。
「あほぼん、わかるまいて」と私。
鰆の幽庵焼き、蓮饅頭湯葉衣、源泉炊きのコシヒカリ、赤だし、漬物。
石川県産の食材ばかりで、魚も米も旨いのなんの。
前菜は蛍烏賊沖漬けとろろ、水雲、あざやか桜。
先吸いは桜海老と筍真丈。
向付は鯛と甘海老と梶木の刺身。
台物は網焼き鶏すき焼き。
メニューを書いているだけで涎だらだら。
「蟹の身の取り方は教えたから、もう自分で食べ」と主人に諭され、息子すっかり蟹身取り名人に。
主人は蟹の甲羅を息子からもらい、甲羅酒を飲んでいました。
デザートが繊細!
加賀棒茶プリン、山中温泉山海堂の柚子餅、加賀棒茶アイスの最中。
「次は3年後、中学卒業旅行な」
主人の提案に息子うなずく。
「卒業旅行は必ず金沢、そして絶対にここに泊まる」
「それ、いいね」と私も賛成。
宿も私たちが記念旅行なので、いろいろお気遣いくださいました。
古い旅館で設備も新しくはない、けれどそこがいいのです、古いものを大事にしている姿が。
贅沢には上限があって、飽和点を超えるとすべて同じ。
私にはこの旅がすでに飽和点。
しらやまさん、ありがとうございます。
きっと貴女の御加護でしょう。
しらやまひめ、菊姫、菊理姫(ククリヒメ)。
『日本書紀』の一場面にだけ登場し、黄泉の国でイザナギとイザナミの仲を取り持ち、その悪縁を絶った、貴女はたった一言で。
ククリヒメ、貴女がイザナギの耳に囁いた一言、いったい何だったのか。
意外と何も発していないのかも。
ただ、最高の権力を持する神に、なにがしかでも働きかけられる勇気、それこそがしらやまさん、ククリヒメのすべてなのかもしれない。
喧嘩はやめよう、と。
平和でいよう、と。