ならだより

2023.9.17 誕生日は布留の郷で

9月17日日曜日、毎年恒例の息子の誕生日ランチに、天理市の「農家カフェけやき」へ。
息子今年で13歳、こちらへはもう10年くらい前から通っているのです。

けやきさんにはビニールハウスめいたテラス席があります。
今年は世界的猛暑が長引き、いつも凌ぎやすくなり始めるこの時期でも、残暑厳しく、「予約された方は、カウンター席を取らせてもらっています、クーラーが効いているので」とのお店からのお申し出でしたが、我々は例年通りテラス席へ。

だって、石上(いそのかみ)は布留(ふる)の郷の風に吹かれて、採りたて野菜を食べるためにここへ来ているのですから。
それに、この日は薄曇りで陽射しもだいぶましでした。

けやきさんは農家をされていまして、自家製の野菜と果物、それも珍しいものを提供してくださるのです。
10年前には知る人ぞ知る的なお店だったのですが、今や大人気のお店、予約がベターです。

野菜ばかりと侮るなかれ、ボリューム満点でおなかいっぱいになります。
ここ天理市の少し山手の布留の郷は、田舎の入り口で、しかも神代からの歴史を刻む名所旧跡が目白押し。
素朴で味わい深い奈良の想い出のお食事処としても、おすすめ。

君はほぼ赤ちゃんだったころから通っているね、けやきさんには。
息子が野菜好きな子どもに育ったのは、1歳から6歳まで通った保育園の調理師さんと栄養士さんと保育士さんと、あと、けやきさんのおかげです。
いろんな方に助けられて子育てをしました。感謝です。

お誕生日プレート。予約をして作っていただきました。
毎年の楽しみです。

店員さんも「毎年この時期にお誕生日ランチに来て下さるから、覚えずにはいられないんですよ。それに、息子さんの成長が楽しみ、こんな大きくなって」と。
息子、なんと身長173㎝で、主人と並びました。
毎日バスケ部の練習で鍛えられているからでしょうか。この日曜日も、たいへん貴重なオフだったのです。

一般的なデザートプレート。無花果のタルトです。
奈良県産の和紅茶と一緒に。

「ずっと、けやきさんで誕生日ランチするよ」
息子は律儀者なのです。

けやきさんから道を挟んですぐ、石上神宮。
神代から続く、大和の古社です。
布留は、古代豪族物部氏の本陣。

石上神宮[いそのかみじんぐう]公式サイト|奈良県天理市 石上神宮は、奈良県天理市にある日本最古の神社の一つです。境内やご祭神、宝物、祭典など詳しく紹介しています。 www.isonokami.jp

私は物心つかない頃からお参りしているのでピンと来ないのですが、初めて訪れる方などには「背筋を正さずにはいられない」空気感が漲っているそうです、石上神宮のこの神域。

布都御霊大神、ふつみたまおおかみ。
布留も布都も、吐く息と吸う息から生まれる音を字に表したものだと私は勝手に解釈しています。
呼吸法を駆使する、心身ともに強くなる。なるほど、朝廷の武器庫を担う軍閥になるわけです、物部氏は。

ここの鶏たち、ときどき襲ってきます。
だから息子は一定の距離を保つのです。

美しき神の使いたち。伊藤若冲の世界。

息子はこちらで七五三を祝っていただきました。
これだけの大社なのに、その神寂びた静けさから。

この厳かな眺め、さすがに神域だと私でも思います。

摂社の出雲建雄神社から楼門を眺めて。
4世紀、百済王から倭王へ贈られた七支刀がこの物部氏の本陣に。
私は奈良にひしめくお宝があたりまえすぎてその価値に額ずく感覚が麻痺していますが、さすがに「もんげー」と思わざるを得ないときがあります。
百聞は一見に如かず。やはり現物の偉大さには敵わない。人間はフィジカルな生物だということです。

出雲建雄神社の向かい側の建物、これ、出雲建雄神社拝殿と銘打たれていますが、そんなもんじゃなくて(失礼)、これ、廃絶された内山永久寺の唯一の遺構、国宝!
先月訪れた琵琶湖竹生島の唐門は徳川幕府に潰された大坂城の唯一の遺構、これはそれと同じくらいの、お宝!
12世紀に鳥羽天皇勅願で建立された内山永久寺、明治の廃仏毀釈で打ち捨てられ、境内の鎮守社の住吉社の拝殿がなんとか残されていたのをこちらへ移築したのです。
この遺構、石上神宮の社史には係わりが薄いので、大々的に国宝とも掲示されていなく、素通りされる方がほぼ。
しかし、こんなしっかりと作られた美しい拝殿、平安後期の天皇勅願寺院の興隆をまざまざと想像させます。

ここから少し離れた内山永久寺跡、ほんとうに何も残っていないのです。廃仏毀釈、満たされていない者が集団暴力に託けて鬱憤晴らしをする。腹を空かせて撒き餌に跳びつく不満分子は、いつの時代にも湧いて出る。
だから反って石上神宮のふところの深さとあたたかさが、この救い上げられた遺構からも知れるのです。これがほんとうの神の道を知る者の行いではないでしょうか。

武力の要は、守り。
軍閥物部氏、闘う者は誰かを何かを守るために強く生まれてきた、そういうことなのです。