奈良市の西部、学園前。白庭台に首位を奪われるまでは、奈良県の高級住宅街といえば学園前でした。
旬を少し過ぎた今くらいの学園前が、実は私は好きなのです。
近鉄学園前駅の目の前のショッピングモール「パラディ」。ここの飲食店フロアに中国西安料理「王楽園」があります。
花のように美しい点心。西安料理、たまに病的に食べたくなります。
王楽園さんといえば、ビャンビャン麺。始皇帝も食べていたそう、花椒(ホアジョア)が効きまくった平たい麺料理です。
辛さは感じませんが、汗が噴き出る。もちろんおいしい!
ここの杏仁豆腐は別格!
私は水菓子が大好物。
近鉄学園前駅から車なら2分、徒歩なら7分、大和文華館へ。
1960年に当時の近鉄の社長が創建した美術館。私、実はまともに訪れるの、初めて。
主人と息子は信楽のMIHO MUSEUMに似ていると言う。
それ、わからなくもない。
規模は天地の差がありますが、あちらもこちらも造りがたいへん高雅です。
美しいなだらかなアプローチの果て、白塗の武家屋敷みたいな建物が。
海鼠壁を意匠にしたのですね、高取城下町の植村家老邸を彷彿とさせます。
大和文華館の夏の特別企画「追善の美術 ―亡き人を想ういとなみ―」、この展覧会はそのテーマからして是非とも観たかったのです。
大名の蔵を覗くような、選民意識をくすぐられるような、ちょっと秘密にしておきたくなる美術館でした。
日本や中国の古代の副葬品から、仏教の追善供養まで、死に向き合うことの意義を真夏に問う。禅修行みたいで、私にはただただ興味深い内容でしかありませんでした。
フライヤーにも使用されていた桃山時代の婦人像、実物は印刷物と比べ物にならないほど素晴らしかった。
わざと由緒書を裁断するとは、描かれた人物の正体を明かしたら、この遺影画そのものを破棄されるかもしれなかったからでしょうか。
これは大坂の夏に散った太閤豊臣家に所縁ある女性の御影、もう、そうとしか思えない、私には。
百八の煩悩の数を玉で連ねた念珠を双の手に構え、蝉の声も絶えた静寂のなか、粛々と死を見つめた、あの時代、最も誇り高く生きた女とは。
春日大社を南下すると高畑町。20年近く前から通う「喫茶みりあむ」へ。
マダムのミリアムさん愛猫の「ねむ」ちゃん。無抵抗でお人形みたいにおとなしいお嬢さん猫ちゃん。
ミリアムさんはフランスの方。綺麗と可愛いを併せ持つ、とっても素敵なマダム。初めてお会いしたときには、天使かと思いました。
それにしても、学園前から奈良公園方面を目指し、奈良国立博物館と東大寺あたりに向かうにつれ、観光客が増える一方。それも外国人ばかり、しかし中韓は減り、ほとんどCaucasoidで、日本人は1割いたかどうか。
おととい奈良博に行ったときには、こんなに観光客、いなかったのに。
旅人にも週末の概念はあるのですね。
このレトロでシックな内装、ミリアムさんの旦那さんの坂本さんのお手製。2014年に坂本さんが亡くなられて、もう9年。
坂本さんには、とてもお世話になりました。
いつも電話でケーキの取り置きを頼んでいたのですが、「瓊花さんだね、名乗らなくたって声でわかるよ。ミリのガトーショコラだね、置いておくよ」と笑って快諾してくださったのです、いつも、いつも。
坂本さんは、自由・平等 ・博愛のトリコロールの精神の体現者で、みんなから慕われていました。
天使のような奥様の名前を屋号に掲げたこの喫茶店、声楽家だった坂本さんの深くてあたたかい美声がどこからともなく響いてきそう。
坂本さん、みんな坂本さんのこと、覚えています。与えられた優しさ、忘れられない。
うちの息子と同い年の孫娘さん始め、坂本さんの想い、みんなに受け継がれています。
もちろん、ミリアムさんが一番の坂本さんの継承者です。
追善の夏、です。
この日のメインイベントは、ミリアムさんと同じ長屋にある西洋骨董「満月アンティーク」。
ミリアムさんを紹介してくださったのは満月さん、こちらのマダムの北村さんでした。
先述のねむちゃん、実はそこそこ人見知りする猫ちゃんだそう。ミリアムさんが留守のとき、満月さんがねむちゃんのごはんの配膳をされるのですが、ねむちゃん、シャーシャー牙を剥くそうな。
さっきはねむちゃん、うちの息子が気に入ったのか、ミリアムさんがそばにいたからか。
満月さんのブログでも「白猫お嬢」として、ねむちゃん、ときどき登場しています。
満月さんは、2007年の開店まもなくからのお付き合い。お品が高価なアンティークなので、なかなか売上に貢献できなくて申し訳ない。
しかし、今日は念願叶ったお品を予約、購入するため受け取りに来たわけです。
南仏プロヴァンスで約100年前に造られた蝉のペンダント。
私には蝉は、特別な生物なのです。
満月さんもそれはしかと認識されていて、私も勉強の再開について腹をくくるときが来たと観念しました。
ミリアムさんと満月さんは、5年前の2018年に、奈良大学通信の先輩のツツコワケさんと訪れました。
「瓊花さんの卒論、読みたいです。完成されたら、読ませてくださいね」
私の論文は、ツツコワケさんへの追善でも、あるのです。