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2022.3.19 美術散華で写仏体験

2022年3月19日、奈良国立博物館特別展「国宝聖林寺十一面観音 三輪山信仰のみほとけ」の親子体験、「散華でポン! 聖林寺十一面観音をかいてみよう」に参加。

予定の30分前には待機している私にしては珍しく遅刻、10時開始の5分前に会場すべりこみ。
奈良博の職員さん「瓊花さん、来ぉへんか思た。いつも一番乗りやから」と。
受付も顔パスでした。

しかし、イベントの題名、散華でポン! とは。
ビートたけしさんの『笑ってポン!』を思い出す私は昭和の子ども。

今回のイベント、奈良きたまちの散華美術館内の美術散華保存会さんが講師。
聖林寺十一面観音菩薩立像をもとに、6パターンの散華がお手本として掲げられ。
散華とは今更ですが、下記参照。

【散華(さんげ)】

仏を讃え供するために花を散布すること。もとインドで花や香を地にまいてその場を清め、また花香をもって信仰対象を供養したことに由来する。古くは蓮などの花びらを散布したが、日本では紙製の蓮弁形の花びらや樒の花または葉が用いられることもある。大法会のときに行う4種の儀式(四箇法要――梵唄、散華、梵音、錫杖)の一つで、これをつかさどる主僧を散華師という。道場内を行道しつつ行う行道散華と、着座のまま行う次第散華とがある。散華の花は、法要のあとで、参拝者たちが自由に持ち帰れる。

『小学館日本大百科全書ニッポニカ』より

でも私には散華は、太宰治の下記の名言が核心を突くもの。

自己のために死ぬのではない。崇高な献身の覚悟である。そのような厳粛な決意を持っている人は、ややこしい理窟などは言わぬものだ。激した言い方などはしないものだ。つねに、このように明るく、単純な言い方をするものだ。そうして底に、ただならぬ厳正の決意を感じさせる文章を書くものだ。

太宰治『散華』

現実での破天荒ぶりはさておき、太宰治は平易な言葉と表現でしか語らない、真の賢者でした。

散華、捧げるという姿勢も、然りでは。

私は衆生をあまねく掬い上げる、十一面観音の右手を選びました。
水の神である出自を表す水瓶を持す左手も、捨てがたかったのですが。

息子、瞋怒面(しんぬめん)をチョイス。
聖林寺十一面観音は、化仏もすばらしいのです。
狗牙上出面(くげじょうしゅつめん)さえ、美貌を誇っています。

先ずは線描を。私は金で少し太めに線を描きました。
写仏は、精神統一あってこそ。黙ってここまで仕上げました。

線が乾いてから面を塗る。息子、赤と緑が天平時代の阿修羅王のよう。

できあがり。
私はウクライナの人たちのことを思って描きました。
色素の薄いスラブ民族めいた仏。右手の指先に、光の色を足し。
どうか救ってあげてくださいと。

先生が「色には性格が出るから、あなたはやさしいってわかるわ」と。
「いや、やさしくないです」と私、即答。
隣で息子が笑いをこらえておりました。

古都奈良の国立博物館で、こんな志向の高いイベントを無料で体験させていただいて、穏やかな心地で仏を描ける。
ロシアからの爆撃を受け、足を失ったお母さんが、命がけで出産された。
もう一方、爆撃のがれきで骨盤を骨折したお母さんは、出産後、赤ちゃんと一緒に亡くなった。

人命に差をつけるなんて、許されない。
それだけは、許さない。

いま目の前で奪われゆく命を最優先に考えて、私は日本赤十字社のウクライナ人道危機救援金に協力しました。

仕上げとして、先生が十一面観音の梵字の落款を捺してくださいました。
しかし、この段階でも息子、「唇の色、どうしよう」と悩んでおりました。

「僕はものすごく集中して写仏に取り組んでいたね。写仏に参加する子はみんな、そういう気質の子ばかりだけどね」
先生のアドバイスも参考に、息子は唇の色を緑にしました。

「お母さんの絵、エジプトっぽいね」と、皆さんから指摘されました。
蓮の花と葉の色だからでしょうか、散華はもともと、蓮弁ですし。

息子の作品も唇が画龍点睛として、息が吹き込まれました。
「僕の色合いは現代美術だね」と先生
息子「奈良博のイベント、やっぱり最後には大満足」とのこと。いつも初めてのことに挑戦なので、それなりに緊張するらしい。

「瓊花さん、5月5日にも大安寺展でイベントします」と奈良博の職員さんに因果を含まれ。
「来ますよね」と。
……了解。

イベントの後、特別展を拝観しました。
聖林寺には現地を訪ねて十一面観音像にも見(まみ)えていますが、いやー、奈良博の360度全面からの展覧は「ようやった!」と感服。

この、流転の憂き目にさらされた稀有な菩薩、東大寺造仏の由緒正しさ、風格。
後ろから見ると蜂のように腰高で、でも横から見ると胴に厚みがあり、あきらかにアーリア人種体形、仏像界のブリジット・バルドーです。

実は私、この仏像界のBB(ベベ)、いつも怒られている心地になります。
ひと言、怖いのです。

十一面観音の荒神としての本懐、疎かにされていない菩薩なので。

息子を奈良博に連行する餌、黒川本家でのお食事。

食後のデザート、息子は本葛わらび餅。
ランチセットのデザート、カスタードクリーム餡の葛餅を包んだ笹の葉は、葛餅を食べた後、トトロのお土産みたいに畳みました。

私の一押しは葛ブランマンジェ。木苺ソースがお薦めです。
量もたっぷり、これ以上おいしいブランマンジェ、ないと思います。