ならだより

2021.12.4 千虚不如一實の奈良の冬

12月4日11時、ならまちの蕎麦処『玄』の門前。通好みの蕎麦屋さんです。

奈良テレビの情報番組『角角鹿鹿』で加藤雅也さんがこちらを訪ねられたとき、「食べたことのない蕎麦」と仰られ、それ以来「前代未聞の蕎麦」を食べたくなりまして。

12月は私の誕生月でもあり、お祝いの膳も兼ね、1か月前に予約を入れました。
打つ蕎麦の量が限られているので、玄は予約しか受け付けないのです。

11時30分の予約時間より早く着き、ご亭主から「25分に来てください」と促され、時間つぶしにならまち散策。

ならまち工房Ⅲに来ました。おー、今回も猫ちゃんが屋根に!
以前もこの屋根に猫がいました。

耳がカットされた地域猫たち。ここは猫が大切にされている、すばらしい商業施設です。避妊手術された保護猫の、里親募集もされています。

何かいるよ。

心霊写真?

右手、大乗院庭園と奈良ホテル。

見てる見てる!

綺麗な猫です。

すんごい威厳。

寝ました。

11時25分、玄へ。なんかね、お茶室っぽい。

せいろ蕎麦、水蕎麦とも。そのまま、塩、おつゆ、と段階を踏まえて食べます。今日は地鶏汁がありました。

素麵のように細く、弾力に富み、うーん、確かにこれは、食べたことのない蕎麦!

息子は田舎蕎麦をチョイス。挽きぐるみの蕎麦です。「山葵もおいしいよ」と息子。山葵の器、栄螺の形。器がどれも、念の入ったものでした。

蕎麦豆腐。湯葉と味噌納豆と山葵を載せ。え、これ何? ぷりぷり、しゃきしゃき、ほんとうに、食べたことない食感!

蕎麦がき。げっきうま。息子が貪り喰らっていました。
蕎麦湯も葛湯のように濃厚で、すべからく懐石料理をいただいているようで、やっぱりお茶席に呼ばれた感じです。

主人の席は床の間の前、和室の正客の席で、背後の掛け軸がますますお茶席っぽい。
揮毫者の東大寺公敬とは、東大寺長老の北河原公敬猊下です。東大寺福祉療育病院でのお祭りで、私も息子も猊下にお会いしました。
「千虚不如一實」とは、納得。

蕎麦饅頭。蕎麦粉、風味豊かで、葛粉みたいな食感。やっぱり餡子は甘くない、上品。
これはもう、お茶席です。

なんだろ、蕎麦屋というより、茶道の初釜に招かれたような。
これは人を選ぶお店。はまる人は、はまる、でしょうか。
そもさん! せっぱ! 試される禅寺のような。

『あしたのジョー』の丹下段平みたいに冷酒と共に掻きこむ笊蕎麦とは異なる。
蕎麦って庶民のものだと思うのですが、なんでも極めれば風格が伴うようで。

「ママが満足できたらOK」と主人と息子。

お付き合いいただき、ありがとうございました。
誕生月の良い想い出になりました。

聖ラファエル教会側の裏門から、奈良ホテルのフロントへ。ならまちからの、近道です。

奈良の迎賓館。古い木造なのでやっぱり冷える。

私には奈良ホテルは自腹で行くところではないのです。接待のお供として、金魚のフンとして、漂うところ。

それでも人生には姿勢を正す機会も必要で。

千虚不如一實の奈良の冬。
寒さもなにくそ、気合を入れて闊歩しました。