2021年10月30日9時、第73回正倉院展開幕。8時30分に奈良国立博物館に到着。
もっと早くに来られている方もいらっしゃるはず。
でも、1時間に500人の入場制限をかけているので、混むことはない。
私はのんびりゆったり鹿に挨拶。「おはようさん。ええ天気やな」
「奈良の鹿って、猫みたい」と息子。猫ったって、奈良の鹿たち、野良ではなく家猫みたいなものですが。
たまたま停まった場所が3列目の先頭だったので、掲示板のモニターが頭上の目の前。ラッキー!
開幕初日のしかも開始時間なんて生まれて初めて利用するので、へー、こんな感じなんだと新鮮。
奈良博のポーチには、テレビ局や新聞社のプレスがたくさんカメラを構えていて、「おら、映るのいやや~」と息子、私の背後に隠れる始末。
杜家立成(とかりっせい)。光明皇后の直筆の文書。
緻密にして剛毅な筆跡から察するに、光明皇后かなりの勤勉家だったのでは。そこらの「おひいさま」と一線を画す、藤家の看板を一手に担う、実力者。
書は人なり。
今年の展示、「書く」をサブメインテーマに据えていて、筆や墨や硯などの文房具と文書が多数陳列され、当時は本当に紙が貴重品で裏まで使用している様が奈良大学通信の史料学概論で学んだとおりで、感無量。
聖武天皇の遺品の小刀は木簡を削るためのもの。「天平時代の消しゴムだね」と息子。言い得て妙だね!
腰帯に下げて携帯した小刀、字を書くことはそれだけ身近なことだったのです。
「書く」ということ、筆跡というものは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』とも相通じますが、人が生きて感じて考えぬいた証です。
正倉院宝物。
1300年前から届いた手紙です。
白瑠璃碗、見たいな。
次はいつ展示されるのか、サーサーン朝ペルシア帝国の息吹。
今年の展示は白瑠璃高杯(はくるりのたかつき)。
大仏開眼会にイスラーム僧が奉納した、エジプトかシリア辺りで製作されたローマングラスもしくは、その流れを汲んで、なお、意匠を洗練させたイスラームグラスかと。
白瑠璃高杯。
優雅にうっすらたわんで、私には西アジアで錬られたものの気がします。
ガラスが
すきとほるのは
それがガラスの性質であつて
ガラスの働きではないが
性質がそのまゝ働きに成つてゐるのは
素晴らしいことだ高見順『ガラス』
五弦琵琶、やっぱりいちばん見たい、正倉院宝物のなかで。
今回の展示は、五弦琵琶と雰囲気が似通う螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)。聖武天皇が慈しみ爪弾いた四弦の円い琵琶。
会場には阮咸と尺八の楽曲が流れ、これが聖武天皇を包んでいた音楽かと、しみじみしました。
清籟蕭蕭。
雨や風や川の流れ、馬の嘶き。
ものさびしい。清らかで。
聖武天皇が奏でておられるようでした。
展示を見届けて階下を目指すと、スロープの入り口から「インタビューに答えていただけませんか」と放送局の方に捕まりました。
息子と私、不意打ちにしどろもどろ。
私たちの前にも何人も通ったのに、狙われていたみたいです。
私やっぱり悪目立ちするのか!?
「ママ、毎日放送って何チャンネル?」
「4チャンネル」
「おら、当分4チャンネル、視ない」
「ミーツー」
憮然と呟く息子に私もうなずき、ふらふらと奈良博を後にしました。もう、いきなりすぎて、何を問われ何を答えたか、忘れてしまいました。
奈良博の向かい側、氷室神社。そういやお参りしたことない。急遽、お参り。
こちらの拝殿、100円を機械にお供えしますと、雅楽が流れるのです。
拝殿は無人なのに雅楽が流れ、びっくりして、なんか調子が狂いました。
息子ともども氷神籤を引くも、二人とも小吉。
雑念が多過ぎるんだわ、親子して。
社務所で引いたおみくじを氷にあてると字が浮かぶ。
「おら、縁談はダメだって、言いくるめられるから」と息子。
「ママは恋敵に注意やって! 鈴木亮平好きな人いっぱいいるし、前途多難やわママ!」
「鈴木亮平って」
こんなんだから、小吉なのです。
東大寺に息子が行きたがり、毎度おなじみ大仏殿へ。
観光客が増えてきましたが、この賑わい、いつまで続くか。
柱の穴くぐり、できません。子どもたち、残念。
奈良県の子どもはみんな、この穴くぐりを体験するのです。
子どもの成長は目まぐるしい。この2年でもう、くぐれなくなる子もいるでしょう。
残念です。
南大門を見上げて。
息子、いつの間にやら私より東大寺が好きになって。
「なんかね、落ち着くの」との言。
そうだね、観光客や修学旅行生であふれても、東大寺にはいつも風が吹き抜けるね、爽やかに。
帰路に着く際、改めて奈良博を遠景と眺め。
切れ目なく続く予約観覧客の列。
この享楽が暫しでも持続することを祈りました。
今回の戦利品。螺鈿紫檀阮咸マグネット。マグネット付き紅茶缶。おたからマグネットセット。どんだけマグネット好きやねん。
あと、正倉院展限定のハンカチ、これが地味におすすめです。私はお弁当箱を包みます。
常設のスーベニールショップで、過去分の正倉院展の図録が半額の500円で販売されていました。
ちょっとしたお得情報です。
今回、オンラインショップも品揃えが豊富で、来寧できない方もご一考を。
皆が楽しめる正倉院展でありますように。