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2020.11.8 彗星を戴く者 ―キトラ古墳壁画天文図―

2020年11月8日、第17回国宝キトラ古墳壁画の公開、行ってきました。
今期の公開壁画は西壁の白虎と天井の天文図。
9時45分の開始一番で観覧しました。
コロナ対策で、壁画管理室に入室できるのは10名15分。
ゆったり観られて嬉しいのですが、これも勿怪の幸いなので、複雑で。

相変わらずのキトラ古墳壁画の保存状態の良さに瞠目。
四神は青龍以外、あざやかです。
天文図につきましては後述。

壁画管理室を出る際、「過去のパンフレットご希望の方はお声をかけてください」の掲示あり、お訊ねしますと、今までのパンフレットを在庫分すべてくださいました。
なんでも言ってみるもんですね。

今回注目の天文図。
入場記念の絵葉書をいただきました。

実物の壁画はさすがにこんなに精彩ではありませんが、それでも金の太陽と銀の月と内軌のなかの星座ははっきりと肉眼で確認できました。

4つの軌道のうち、中心線がずれている唯一の軌道、黄道に注目。

10時30分から特別ギャラリートーク「ダジック・アースから見る宇宙、地球」京都大学大学院理学研究科准教授齊藤昭則先生の講演を聴講。

直径2mの球形スクリーンを用い、日本天文遺産に認定されたキトラ古墳壁画天文図についての講義、10歳未満には難しめでした。
息子、ぎりぎり理解していたかな。

ダジック・アース
ダジック・アース概要

ダジック・アースについては上記URLをご参照のほど。

私は子どものころ天文学者になりたかったので、私が一番意気込んで参加していたような。
算数が数学に進化した段階で、理系の最たる天文学者への道は「ダメだこりゃ」と諦めたのです。

でも、おとなになった今も、星は大好きです。
星空はあまりにも美しく、吸い込まれそうになる、吸い込まれてもかまわないと、酔い痴れ続けています。

講義の前に受付で渡されたキトラ古墳壁画の展開図。
折り紙で箱を作る要領です。
これは被葬者の側から見た天文図。

さきほどの天文図の裏面。
天球儀は、神の目線。
すんごい注意深い作業。さすが京大理学部の仕事。

さて、ここで講演のhighlightを。
齊藤先生はたいへん理知的ながら判り易い誠実なお言葉で地球と宇宙のお話をたくさんしてくださったのですが、私が最も脳を刺激されたのは、キトラ古墳壁画天井の天文図の黄道だけが反転して描かれているという事実でした。

「僕は、壁画職人が天文図を写し間違えたという通説は安易だと思うんです。星の動きを読める天文図は当時、最高機密であって、完全体では盗用される惧れがあり、敢えて黄道を反転させたのでは?」
齊藤先生は古代史の専門家ではいらっしゃらないので、理学博士の視点での見解を述べられました。

「もしかしてそれって彗星の軌道?」
私は、偶然、少し前にこんな記事を読んでいまして、そう思い返してしまいました。

初期に黄道面にいた長周期彗星がオールトの雲を経て再び惑星領域に戻ってくるときの遠日点方向は2種類あるとする。初期値である黄道面か、銀河面に対して黄道面を反転させたもう1つの仮想的な面(樋口特任研究員は「空黄道面」(empty ecliptic)と命名)のどちらかであることが導かれたとした。

オールトの雲からやってくる彗星の分布・銀河座標に浮かぶもうひとつの黄道面 | RISE月惑星探査 プロジェクト

もしそれが彗星の軌道だとしたら、そんなものを読めた古代人は「おったまげ」な天才集団です。
この天文図は紀元400年頃の星座を写しています。(星座は固定ではなく、恒星や惑星や星群のひとつひとつが経年でそれぞれ位置を変えます。)
紀元400年の中国は三国時代から南北朝時代で、その時代に反転する黄道を算出なんて、さすがに。
いや、古代中国の数学はかなりレベルが高く、天文学のための代数幾何学は殷代には既に成立していたとも。

何より、彗星は凶兆で、しかも帝王の失態を示唆するもの。
となると、キトラ古墳の被葬者は……天皇クラスの人物?
背筋が凍りました。

すべてこれ、私の妄想ですが。

とにかく、安易な通説は私も否定したいところです。

齊藤先生の研究チームの皆さんよりたくさんお土産をいただきました。
理系のお勉強、いいものですね。数字は世の中にdirectに響くので。

11時30分より特別ワークショップ「オリジナル月球儀作り」。
講師は京都大学大学院理学研究科研究支援推進員の小田木洋子先生。
齊藤先生の研究グループの先生です。

磁石の重しを入れたプラスティックの球に、月球儀の舟形多円錐図法のシールを貼っていく。
……これ、難しいで!

私があらかた鋏を入れ、息子が細部をチョキチョキ。

赤道の「あたり」を抑えるのがキモ。
私が赤道の見当をつけて、息子がシールを貼る、連携プレイ。

なんとか貼れた!
スプーンの背で撫で、しわ伸ばし。
撫でれば撫でるほどしわは消えるそうです。

一番乗りで出来上がり。
参加者は、息子より小さな子が多かったので。
小田木先生「僕は何年生? 4年生か! やっぱり手が大きいね。お母さんも器用ですね、お二人とも上手で、手作業がお好きなんですね」と。
私も実に大人げない、真剣に手作りしてしまうんで。
息子は先生方から記念撮影されていました。

「おらの月だよ」
「これ、お金かかったの?」
主人の問いかけに私は首を横に振り。
ギャラリートークもワークショップも、なんならキトラ古墳壁画観覧も、参加費材料費すべて無料、です。
お国のお金、です。
ありがたい。糧にします。

アポロ11号の着陸地まで明確に記載された月球儀。
月の兎にぷすぷす刺さる世界列強の国旗。

息子の胸に貼られているのはキトラ古墳壁画保存管理室の入室証。
今回の催しが一番良かったです。

キトラ古墳へ来れば、車で10分、高取町の「すこ。」さんのランチをテイクアウト。
数日前に予約注文しておかないと、お昼前には売り切れ必至。

於美阿志(おみあし)神社、古代では渡来人東漢氏(あずまのあやうじ)の氏寺であった檜隈寺(ひのくまでら)の裏でピクニック。

ローストポークと人参シリシリ、野菜のキッシュに薩摩芋、胡桃のサラダに柿、ブルーベリージャムを添えた紅茶スコーンとプレーンスコーン。
秋バージョンのスコーンランチ。かわいいビジュアルなのに、量が半端ない。
このギャップが素敵なんだよな。

腹ごなし。てくてく。

うわ! 犬のフン!

さっきの、犬のフンだよね。

猪のフンだったらどうしよう。

檜隈寺跡前休憩案内所。
ここ訪れるの、2年ぶり。

息子、しみじみでっかくなった。
「よその子とゴーヤは成長が早い」とは博多華丸大吉さんのネタですが、息子、当然うちの子なのに、ゴーヤみたいに思えます。

すこ。さんの看板スコーン。
甘くなくて大きくて、本当においしい。
私自身への飛鳥のお土産です。