2020年10月11日、橘寺と稲淵宮跡のあいだほどの明日香村立部、古代の技法での草木染を体験できる水谷草木染さんへ行きました。
私は染色に興味あれども、小さいころ鳳仙花で爪を染めた程度、本格的な染色はこれが初めて。
わくわくどきどきでした。
10時の予約時間にまだ余裕あり、最寄の定林寺跡へ。
ここは聖徳太子建立七ヶ寺のひとつ。東漢氏系の平田氏の氏寺、立部寺とも。
蘇我氏と結びつきの強い、渡来人一族の寺院跡であることは、まあ確実なのでしょう。
基壇でしょうか。陽の光がスポットライトのようで、見晴らしも良く、この地域を俯瞰するに相応の地形です。
抜け目ない、さすが蘇我氏の眷属の寺。
ぽつんと、石造物。
立部の立石。聖徳太子の馬繋ぎの石とか。
太子は馬と切り離せない方です。
塔跡の礎心から発掘された菩薩塑像の頭部はかけらですが趣深く美しく、白鳳時代の息吹そのものです。
今は奈良博に保管所蔵されています。
なぜ菩薩の御顔の「部分」が鎮壇具として納められたのか?
そもそもそれは鎮壇具だったのか?
いくらでも謎は湧き上がります。
定林寺跡、明るくて寂しい、たいへん私好みの空間でした。
さて、少し早いけど、時間です。
水谷草木染さんの軒先まで戻ってきました。
すてきな前栽が行く手を確かに拓けてくれています。
古民家の壁一面、見本の作品。
媒染を使用しない古代の技法になるべく忠実にされているので、やさしい色合いです。
水谷道子先生の解説では、古代、染料より布のほうが貴重で、色褪せた布は何度も染め直すため、誰にでも踏襲できる古典柄が編み出されたそうです。
北条氏の三つ鱗は闘志を燃やす際に、亀甲は婚礼出産など慶事の風呂敷に、生活に根差した伝統柄です。
バンダナにするかストールにするか、どの模様にするか、サイズと技法を考え、選びます。私はストール、主人と息子はバンダナに決定。
私と主人、どうでもいい構図。
今日用いる染料は8色。
茜は赤、赤米は小豆色、枇杷は桃色、梔子は山吹色、玉葱は黄色、背高泡立草は黄緑、栗は茶色、李(すもも)は紫。
やはり茜は圧倒される色です。
古代、高貴な人しか茜染の着用を許されなかったそう。
李の紫も目に染みる美しさで、古代からの風が吹き継がれる飛鳥では、自然に負けない、色も濃いものが意識に留まります。
古代人が派手な色を好んだことは、現地に来れば納得できます。
自然あふれる飛鳥の風景には人目を奪う紅や紫が何もおかしなものではないのです。
むしろ、自然に準じる姿なのです。
裏庭では染料の草木が煮出されています。
布を折り、割箸で挟み、輪ゴムでキリキリ縛り、私はかなり手間のかかる模様を選んだため、顳顬の血管をピクつかせ、目も血眼で作業にふけりました。
水谷先生も「お花の数、減らす?」と進言してくださいましたが、私は一度すると決めたことを自分の怠惰で頓挫させるのは絶対にイヤなので、「あきらめたくないんです」と断言しました。
「ママ、がんばれ。おら待っとくから」と、息子はさっさと竹模様に布を折り、これまたさっさと染色に入りました。
主人は、私と同じような折り模様で、「1個折るだけでも大変やのに、ママはやっぱり根性ある」と、珍しく褒めてくれました。
茜と梔子。茜は大人気でした。
茜の赤、それは例えれば血の色、命を燃やす血の色、生き物として惹かれるのは無理もない。
李と栗。
李の紫は褪色します。
「色が褪せたらまた来てね、染め直すから」と水谷先生。
やったー、また草木染ができる!
できました!
真ん中のお花が5個のストール、私の作です。
私の右が主人作のバンダナ。
私の左が息子作のバンダナ。
もう想像以上の仕上がり、感激しました。
汗をかきかき、熱い鍋で染料を布にひたし、何度も色を載せて水で洗い、布の折り目をひらいたときの高揚、一期一会の模様と色彩、自然が私に贈ってくれた命です。
すんばらしい、感動しちゃった。
水谷先生、おやつをご馳走してくださいました。
おはぎとあすかルビーのゼリー。
おはぎ、甘くなくてすごくおいしい。
あすかルビーは明日香村名産の苺、おー、まさに茜色。
「ママさん、よくがんばったね。ほんとうに手づくり感満載の手仕事の作品やね」
「先生、ありがとうございました。また来ます。すごく楽しかった」
私は慾どしいので手間のかかる模様を選びましたが、なにしろ時間がかかりますので、予定の2時間以内で終えたい方は私の花数はお薦めしません。
でも、お花模様、綺麗です。
夏は藍染もされるとのこと。
夏まで待てない。
近いうちに再訪しようと思います。
染色、いいなあ、趣味にしようかな。
水谷先生が撮ってくださいました。
「ちょっとぼやけたわ、ごめんね」
いいです、バッチオーライです。
最寄の明日香村健康福祉センター「たちばな」で遅い昼食とお風呂に入って帰路につきました。
お風呂は「太子の湯」といいますが、温泉ではありません。村民の銭湯、そんな感じ。
ごはんは、安くてとてもおいしいです。
このあたり、石舞台や岡寺など混雑しそうな名所ではないので、染み入るように静かな光景でした。
この小高い緑の向こう、天武と持統の眠る丘が。
なんでもない風景なのに、飛鳥は別格です。
水谷草木染さんのブログに私たち家族の作品がアップされています。
古代が息衝く明日香村で草木染、一生の想い出になります。
茜の色は迸る血の色、万葉人の熱い血の色、是非ともその目に直に焼き付けていただきたいです。