2019年3月2日、平城宮跡めざして近鉄大和西大寺駅を東へてくてく歩いていくと、二条の辻の交差点、歓喜寺地蔵尊と弘法井戸が鎮座まします。
有名なお地蔵さまです。賽の神でもおわっしゃる。
ここを基点に、南下します。
ほーれ、見えてきたよ、朱雀門。
平城宮跡は、近鉄奈良線の大和西大寺駅と新大宮駅のあいだ、中途半端な場所にあります。
徒歩でなら、新大宮駅から向かうより、大和西大寺駅から向かうほうが道も風景も穏やかで、お薦めです。
朱雀門まで、駅から歩いて20分で着きました。雲ひとつない晴天、暖かい。
「今日はここで遊ぶの?」
「自転車、持ってきたら良かった」
「わー、暑くなってきた!」
こんな出来立てほやほやの建築物、古き良き寧楽の都を求める観光客には不人気なのかもしれません。
だって貸し切り状態ですもん。息子は大喜びですが。
今日は、平城宮跡公園の施設内のイラカコーヒーで、カフェスタッフ体験です。
身支度ととのえ、タイムカードを押して、お仕事開始です。
「ママ、静かにね、ほかにもお客さんがいるんだから」
息子、すっかりカフェのギャルソンです。
「ママ、お客さんになってね」
「いらっしゃいませ、メニュからお飲み物を選んでください。はい、ホットミルクティですね。ご注文ありがとうございました」
手作りのプリンやケーキの品出し、おそるおそる。
教わった通り、丁寧にショーケースへ並べていきます。
奈良県名産の柿の葉寿司を鯖と鮭に分けて、トレイに盛りつけます。
息子は普段からきびきび動くほうで、親バカもありますが、カフェのスタッフに向いていると思いました。
息子は、総勢5名のお子さんたちと、焼きあがったクッキーを保管したり、お客さんへ飲み物をサーブしたり、バックヤードから荷物を運んだり、ソフトクリームをいちから製造したり、頑張ってカフェのギャルソンとして働きました。
息子、成果として、大和茶のソフトクリームを巻いてみました。鹿のクッキーも添えて。
「あ、休憩中はなるべく撮らないで!」
すごいね、弁えてるね。
タイムカードを押して、お仕事終了です。大学生になったら、ここでアルバイトできるね。
土日祝のみ運行の100円バス、ぐるっとバスに乗って、ならまちへ。
お目当ては中華粥の「穀雨」さん。ここはほんとうは誰にも教えたくない。
中華粥セット。雨水の時節、春菊と胡麻のお粥。……おいしいいいいいいいいいい!
付け合わせの豚角煮やもやしも最高。野菜の調理がしっかりしていて、漢方や薬膳の素地があって、こんなおいしい中華粥、ないです。ここだけ。
穀雨さん名物、飛鳥鍋風坦々麺。おいしい! 四川の山椒がたっぷり!
私は穀雨さんの坦々麺しか食べません。脂っこい食べ物が苦手なので。ここの坦々麺はあっさり、滋味深い。
デザートはミルクプリンとライチ紅茶。息子曰く「プリン食べてから紅茶飲むと、いいかんじ、ママもやってみて」とのこと。
私思わず「ほお」と感心。そんな出会い物の味までわかるようになったんやね、しみじみ。
これ食べたかったな、後悔。お水取りのこの時期限定メニュ。しかも、精進料理は私の大好物。
よし、近々、再訪しよう。
行きは、近鉄奈良駅から東向商店街と餅飯殿商店街と、観光客でごった返した道を採ってしまったので、帰りは、猿沢池めざして小路をてくてく。
すると、率川の舟に乗ったお地蔵さまたちに遭遇。
奈良大学通信教育部のスクーリングの仏教考古学でも、率川地蔵尊について、講義の話題にのぼりました。
なんというか、とても奈良らしい眺めです。品があるのに、素朴。
率川はすぐ暗渠となります。采女神社の後方に、地下へ向かう川を見守るようにお地蔵さまが二柱。
河川工事後に成された配置だと思いますが、すごく的を突いた祈りの形です。
鶴屋徳満で、お水取りの時期限定の主菓子の「開山良弁椿」と「閼伽水」、そして干菓子の「奈良お水取り」を買いました。
甘さあっさり、老舗の和菓子です。
良弁忌が誕生日の私、お水取りは身に染みるものがあります。
変若水(おちみず)に捧げるものが、お松明、火なのです。
良弁椿も、糊こぼしに赤い花が白く抜かれ、ゆらめく蝋燭のようです。
雨水のころ、春への階段を一段ずつのぼるように、奈良のやさしい食べ物を身にとりいれ、季節の変わり目を楽しむ。
ささやかながら、豊かです。