ならだより

2019.1.13 Frozen Memory こおりついた記憶

2019年1月13日、奈良県桜井市、『万葉集』の穂積皇子が想い人の但馬皇女へ詠んだ鎮魂歌の舞台、吉隠(よなばり)の猪養(いかい)の丘あたりを車で通りました。
入江泰吉さんの写真では、すばらしい棚田に雪化粧で、傷心の皇女が眠るにふさわしい光景ですが、私は写真はド素人、地名を言わないと何が吉隠だか猪養の丘か、です。

但馬皇女の墓は不明ですが、同じ吉隠にある春日宮天皇妃陵がそうではないかとも言われています。
そこそこの山頂にある古墳らしく、一人で行くのは厳しそうです。蝮が出そうで。
もちろん、猪養の丘ですので、猪も。

着いた先は、曽爾村。
お亀の湯に湯治に来ました。
曽爾に来る日はいつも好天です。

ここの温泉は大人気なので、開店と同時には着かないと、温泉もお食事処も混雑します。
併設の曽爾米の米粉パンのお店も、早くパンを買っておかないと、午後には売り切れてしまうのです。

ああ、今年も出遅れました。パンは買えましたが、脱衣場は混み混み、食事は売り切れのメニュー続出。
曽爾へ行くには朝7時には出発すること。備忘録としてここに明記しておきます。

息子が注文したうどん定食。撮影も息子、すこしピンボケ、ご愛敬。
まさか鶏の唐揚げがついているとは! これはお値打ちでした。大きくて、めちゃくちゃおいしかったです。
息子のうどん定食で、唐揚げは完売となりました。

主人は、唐揚げ定食が完売なので、鮪のヅケ丼にしました。
しかし、なんで山で海の魚を注文するのか。
鮪の味は平凡だったそうです。米と味噌汁がうまかったからいいや、と。

私はけんずい定食。
間水、軽い食事の意味でしょうか。
地玉子に、採れたて野菜の掻き揚げ、おだしのきいた味噌汁に曽爾米のごはん、ほんとうにおいしい。
やっぱり素材の良さがすべてです。
けんずいにしては、おなかいっぱいになりました。

名高い温泉なので、色紙もたくさんかかげられていました。
朝青龍の色紙が白眉でした。
おー、ドルジも浸かったお湯なのね、と。

休憩所は琉球畳に床暖房で、主人はグーグー寝てしまいました。
私は温泉備えの駒と盤で、息子から将棋のいろはを教わりました。
へー、敵陣地に入ると強くなるんや、角行と飛車、やたらかっこいいやん、桂馬は曲者や、人間にもおるおる、など、私がいちいち感想を述べると、「王様を逃がす、それが将棋」と息子が断言。
「王様を守るんやないの?」と私が問うと、「ちがう、逃がす」と答える息子。
「あ、王様も動くんか」と私。
「動かへん王様なんか、守られへん」と息子。
なんと深遠な。
びっくりした、すごいやん、将棋の世界。
ちょっとこれから楽しみが増えました。
私の師匠は息子です。お手柔らかに。

兜岳をふりかえって。
天を摩す兜、奢りの若さ、古事記のハヤブサワケとメドリの逃避行、必ず思い出します。
火はまだ燃えているかと、験されているような、火山だった山に。

帰路の車中より、ふたたび吉隠の撮影。
夕陽が眩しく、光線フレアがたくさん入り、赤々とした絵になりました。

青春にはかなわない。
そうつくづく頭を垂れます。

私は幼いころ、生きる気力が乏しく、おとなにはなれないと早々諦めていました。
それが2回目の成人式も数年前に終え、思い出すのは1回目の成人式あたりのこと。

生意気でした。馬鹿でした。
弱い、だから強がりが言えて、怖いものなんて何もありませんでした。

私にもあるのです、私以外の皆にもあるでしょう、Frozen Memoryこおりついた記憶が。

そこでは私は二十歳の奢りの若さ。
ふるえています。
こごえています。
そして、蒼白く、燃えてもいるのです。