2020年1月13日に放映されたNHKスペシャル『アイアンロード 知られざる古代文明の道』、これがタイムリー過ぎて、立ち眩みがしてしまいました。
2019年の文化財学講読Ⅱのスクーリング後、深澤先生と卒論について談議中に失笑ふくめた注意事項として、「瓊花さん、行きたいだろうけど、中国から向こう、攻めて行ったらアカンよ。瓊花さんの卒論の主題、たいへん面白い材料でユーラシア全域が研究対象になるけれど、あんまり遠くに行き過ぎると、日本に帰ってこれなくなるからね」、とブッスリ釘を刺されたのです。
私は卒業論文の攻略方法のひとつに「鉄のルート探求」を設けていたのです。
まさにアイアンロード。
これは、匈奴やスキタイやヒッタイトや古代朝鮮半島の馬具などを研究しておられる方々には、ごくごくあったりまえのルートです。
ただ、2017年にトルコのアナトリア地方のカマン・カレホユック遺跡にて古代ヒッタイト以前の地層から人工の鉄滓が発見されたことにより、それまでの認識を問うこととなったのです。
ですが、天下のNHKスペシャルで、まさかの冒頓単于の実写が見られるなんて、感無量、でした。
ここまで遊牧民の存在が日本の人口に膾炙される、嘗て無かったことでは。
私は、この匈奴の覇者の生き様が、嫌いではないのです。
実の父に騙し討ちで抹殺されかけ、臥薪嘗胆その父を返り討ち、新たな元首として陣を率いるために先ず冒頓単于は、自身の一番の愛馬と一番の寵妃を兵士たちへ弓で射殺せと命じ、それに躊躇した者は容赦なく斬り捨てることにより、我が命に背く者は裏切り者として処す、裏切りは断じて赦さない、何人をも逆らわせない、最強の軍を築きあげた。
冒頓単于が傷ついていないはずがない。
一番の愛馬、一番の寵妃、彼はその時点の彼にとって一番の宝を捧げたのです、「何人にも先んじて自分が失うため」に。
最も多く得る者は、また、最も多く失う者でもあるのです。
自分で自分の胸を刺し貫いたほどの傷を心に負い、いったん死んだようなものの冒頓単于だからこそ、覇王として生まれ変われた。
Iron road, cross border.
鉄の馬具、鋼の武具、スキタイから伝わった黄金の兜と甲冑、それらを一身に帯びた騎馬遊牧民の覇王の命のもと、数多の矢を総身へ射掛けられ血まみれで草原に斃れた愛馬と寵妃、その悲しいほど青い天空を映した瞳、閉ざしにいきたくなりました。
鉄の道、越境して。