三角関係の悲恋は、相思相愛のふたりを阻む存在が善き人であればあるほど、純度が増します。本邦の穂積皇子と但馬皇女の道ならない恋も、高市皇子の人としての大きさによって、月並みな三角関係では終わらせない叙事詩へと昇華した気がします。
2006年のアメリカ映画『トリスタンとイゾルデ』において、トリスタンの叔父でありイゾルデの夫となるコーンウォールのマルク王がすばらしく善い人で、それだけでこの映画の格が何段階も上がっていました。
ケルトの伝承を踏まえたトリスタン伝説は欧州各地に拡がり、それらをまとめた散文『トリスタン物語』では、トリスタンとイゾルデは媚薬を飲んで恋に落ちるのですが、この映画では媚薬は出てきません。それがとても良かった!
そう、ふたりは自然に恋に落ちた。
媚薬など必要とせず。