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2017.12.16 音羽山観音寺 冬の念珠

2017年12月16日、NHK教育でおなじみの『やまと尼寺精進日記』。その舞台の奈良県桜井市の音羽山観音寺に行きました。
奈良新聞社のフリーペーパー「ならリビング」で定期的に催されるイベント「音羽山観音寺念珠づくり」に参加したのです。
テレビ放映での注目も増し、25人の定員に対し倍以上の参加希望で、私も当初は抽選に漏れました。しかし、キャンセル繰り上げで急遽参加が可能に。
で、主人と息子と3人で桜井市へ出発。山の裾あたりの駐車場の看板には「山登り」の文字が当然のごとく。

受付のならリビングの方から「瓊花さんですね。お誕生日おめでとうございます。来られない方たちもたくさんいらっしゃる、そのなかでここに辿りつけたのは、観音さまが瓊花さんを招かれたから。御縁なのですよ、きっと」と。
12月16日は私の誕生日なのです。
天気予報では雨70%とかでした。それが当日は御来光までおがめる晴れ曇り、山登りに最適な朝でした。
私のような無信心の輩でも御縁という一期一会は、ひしひしと感じられました。

山登り、開始です。お寺までの距離は1kmほどですが、これから先、えらい坂がうねうねと待ち構えていました。私も山道で撮影する余裕もなくなり、写真もこれ1枚こっきりです。

30分ほどでお寺に着きました。山頂できわめて寒いのですが、坂道を懸命に登り切って、汗だく。
境内、小ぶりな楓の落葉が足裏に柔らかく、カレーを思わせるスパイシーな芳香、お香でしょうね。

観音さまに般若心経を手向けてから、念珠づくり。「音羽観音」と刻印された4色(赤・緑・黒・透明)の大玉を一つ選び、あとは自分の好きな色合いで玉を掬います。
石の効能とか、そういったことはまったくここでは問われなかったです。いっそすがすがしいと思いました。

息子は石を選ぶのも玉を連ねるのも韋駄天のようにすばやく、「迷いがないね」「邪念がないからだろうね」と周囲のご意見。副住職の慈瞳さんからは「少年!」「少年!」と呼びかけられていました。

定員25名は人生の先達で占められ、子どもはうちの息子のみ。みなさん汗だくになって山門を目指されるだけあって、真面目な方たちばかりでした。

糸を通した念珠は本堂で御祈祷されます。参加者一同さーむーい本堂で「ねんぴーかんのんりき」と観音経を唱えます。
慈瞳さんが「うちの御本尊さまは千手観音さまです。本当に手が千本あります。その1本が今日あなたに届き、ここへお連れになられた。すべて御縁です」と仰いました。
現実に、いくつかの偶然をかいくぐり、ここまで来れて、汗をかきかき修行として山を登ると、観音さまの手が私の肩をつかんだ、それも自然に納得できました。

さて、御斎(おとき)です。御斎とは法事の後の軽い食事のことです。
伏せられたお椀には大きな麩が。ヨーグルトのデザートまで。素朴でおいしい料理を堪能しました。
観音寺の精進料理は以前から有名です。ただ、ここまで到達するのが難しい、健脚でないと無理なのです。

食後は、後藤密榮ご住職のお話。ご住職はテレビでの印象そのままの、やわらかいあたたかい方でした。
「どうして我々のこのような生活がドキュメンタリーとして受け入れられたのか、いまだによくわからない」とご住職。
そういえば私もどうしてこちらのお寺に惹かれたのだろう?
きっと、山の頂に不便を覚悟で生きていくと決められた、ご住職の信念に惹かれたのだろう、と自問自答。

上の黒玉メインは主人製作。中の緑玉メインは私製作。下の赤玉メインは息子製作。

ひとりひとりにご住職が手渡しされました。私の名前がご住職に呼ばれたとき、ならリビングの方が「瓊花さん、今日お誕生日なんですよ」と。「もう祝える年でもありません」と私。「いくつになっても誕生日はお祝いすべき」とご住職と慈瞳さん。

ありがとうございました。一生の思い出になりました。

帰り道、こけないようにゆっくりと小刻みで。
またきてね、またきます。

桜井からの帰路、山の辺の道の大古墳群や天理教の本部を眺め、奈良高畑の喫茶みりあむを目指します。
ここは満月アンティークのマダムから「世界一おいしいかもしれないチョコレートケーキ」のお店として紹介してもらって以来、ちょくちょく訪れているお店なのです。
マダムのミリアムさん手作りの世界一おいしいGâteau au Chocolatは私の誕生日のお祝いケーキです。いえ、ハレの日でなくとも食べていますが。

ミリアムさんはフランスの方です。綺麗で可愛い、天使のような方です。
うちの息子を「赤ちゃんのころから知ってるよ」といつもやさしく相手にしてくださいます。
息子もミリアムさんが大好き、もちろんガトー・オ・ショコラも。

ハンガリー風のシチューも、麻薬のようにはまってしまうカレーも、ご主人の坂本さん手ずから外装も内装もなされた木製の素朴で味のあるお店に、珈琲の芳香と共にしみわたり、いつ来てもほっと落ち着く喫茶店なのです。

お金はそんなにかかっていない、けれどとても贅沢な誕生日となりました。

念珠の下に敷いたマットは、八尾市立歴史民俗資料館で息子が夏休みに製作した藍染です。