「瓊花さん、これまでに、どの遺跡にいちばんガツンとやられた?」と、brainに尋ねられました。
これは即答できます。
埼玉の稲荷山古墳出土金錯銘鉄剣と、熊本の江田船山古墳出土銀錯銘大刀、「獲加多支鹵大王」、ワカタケルすなわち雄略天皇の諱が刻まれていた、こらら国宝の二振りに、私は目から星が出るほど強烈に一発、いや二発か、ガツンとやられました。
ちと荒っぽい表現ですが、漫☆画太郎さんが描いた、ダウンタウン浜ちゃんの肖像に副えられたその煽り文句、これがそれら金石文へ対する私の率直な感想です。
国宝級のお宝は今までたくさんお目見えしてきましたが、大悪天皇(はなはだあしきすめらみこと)と「そこまでけなすか」と訝るほど恐れられた暴れん坊の古代王者、その銘を刻んだ剣二振りには敵わない。
ほんまに、生きとったんかい、ワカタケルのおおきみ。
タケルの名を冠す勇者、猛者。
これがでも、大和や畿内から出土したものなら、また話は違ってくるのですが。
そう、埼玉と熊本から出土したは、新たな謎も浮上したということ。
私は奈良大学通信教育部では文化財学を専攻していますが、実は史学が向いてるんやなかろうか、と思うこともしばしば。
なぜなら、考古学はチームワークが要。一方、史学はこつこつ自分との闘い。
「瓊花さん空飛ぶ鴉にも話しかけるくせに、コミュニケーションが苦手ってさ、嘘お言い」とbrainに揶揄されますが、私は狡猾ですので必要なら人類に限らず他者との交流を厭わない、それだけです。
実際は、独りで黙々と取り組むことが好きです。
ただ、上記の目もくらむような金石文を目の当たりにすると、考古学も史学も枠が吹っ飛んでしまう。
批難ではなく、批評をしよう、と。
そもそも、批難したくなるような存在とは、いっさい手を切るべき。
天皇(すめらみこと)、心を似て師とし給ふ。
『日本書紀』雄略紀
『日本書紀』における雄略天皇の表現。自分が自分の師とは、もんのすんごい自信家!
独立不羈の四字熟語、他人に縛られず自分の考えで動く、ワカタケル大王に最も相応しい。
倭の五王の時代、あったりまえのように朝鮮半島や中国南北朝時代の宋と関わって、なんだかこの時代の日本列島の国際感覚は瞠目たるものではと、古代史の無限の面白さに浸れます。
いまだに残暑引きずる寧楽の都のお膝元、蒼白く燃えあがる英雄かつ梟雄の、考古学的に実在を認められた日本最古の天皇について考察するのは、怖気も加味され涼しく、ちょうどいい。
黒岩重吾さんの歴史小説、十代のころによく読みました。
どの作品も黒岩さんご自身に似て、凛々しく烈々とした世界観ですが、今読むと「うん?」と咀嚼できない部分もあります。
それでも、黒岩さんのように自分の意見は自分の言葉で表現しないと誰からも相手にされない、そう私なんかは思うので、堂々と名乗りを上げて行動して結果を残せた人が斯界を牽引して然り、とも思います。
大阪生まれ、奈良育ちの黒岩さん。
人間がお好きだったことは、どの作品を読んでもわかります。
人間が好きでないと、歴史の研究には苦渋するでしょう。
私は独りで考えることが好きですが、それは、人間そのものに敬意を払った前提です。
どんな人からも、学べるので。
そう、国境を越えて、時代を超えて。