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シルクロードの夢 返る

ウルムチ 天池 ⒸT.S

文化財修復学で机を並べたTさん、8月27日からシルクロードを旅行中。
新疆ウイグル自治区のウルムチからトルファン、新幹線で敦煌へ。
Tさん、毎日、臨場感に溢れる現地の写真を送ってくださり、私の西域熱を再燃させていただくことに。

ウルムチ、天山山脈、カザフ民族村、中国のスイスと称される世界遺産の天池、二道橋国際バザール、楼蘭の美女のミイラ。
トルファン、アスターナ古墳群、火焔山、ベゼクリク千仏洞、蘇公塔、地下水路のカレーズ、世界遺産の交河故城 。
敦煌、月牙泉、鳴沙山、莫高窟、玉門関、陽関、漢王朝の長城。

以下、Tさん、そして、ご同行のご友人に捧げる中国現代詩です。

すばらしい旅行記へ、ささやかなお返しです。

「香妃の夢 返る」
張詩剣


聳え立つ――
胡楊樹 世の人は言う
生き続け 千年は死ぬことなく
死んでも 千年は倒れることなく
倒れても 千年は腐ることがない
ああ 何という
あなたの強さ

青春――
恋人の心に生える紅柳
大ゴビの沙漠
金の沙の海に 巧みに根を張り
アルカリの大地との戦いに打ち勝つことができる
ああ なんという
あなたの品性

漂う香りに――
香妃の夢が残る
あなたは 宮女三千から選ばれ
一身に集めた寵愛を棄て
胡楊を敬い 紅柳を思いやることを選んだ
金と玉とで建てられた人工の宮殿を捨て
山川自然の精華を身に取り込むことを求めた
果てしなく広がる草原と
馬や羊の群れを愛し
ゴビの砂漠、砂の海に心を傾けた

八百里も続く艶やかに赤い火焔山と
無辺に広がる沙漠に上る一筋の煙
千年の時間を経た雪が
あなたの美しい身体と高貴な気節をつくり上げた
天山の雪蓮の
香りを浴びて絶世の香りが生まれたのだ
あなたは皇妃になりたくなかった
ならば鉄扇公主になればいい
私はまことの愛を捧げ火焔山に投じよう
そのときはどうか寛大に見ていてほしい


遥かに続く絹の道には
あなたの影が漂いあなたの精が残る
交河の城址、高昌の城址には
あなたの見果てぬ夢が凝集している
トルファンの地下五千キロ
広がる地下の井戸からは
命の泉が湧きだしている
それはあなたの血

私はブドウ溝の葡萄棚の下で
馬乳を呑み、馬乳酒を飲んだ
飲めば酔い
酔い潰れ あなたの夢の懐に入り込んだ
夢の中 達阪城の娘たちが
妬ましげな口ぶりで
大いに馬車の御者の歌を歌い
争って嫁入りの「抓飯」を食べている
夢たけなわで夢から還り
私はあなたの輝かしさを感じ悟った

ボゴダの雪山の三つの嶺
その起伏する様は筆置に似る
夢の中で
私はあなたと天池で共に水浴びし
共に詩文を賦した
氷で結ばれた思いは あるいは
おなじ香りから来たものかもしれない


張鶱、班超、陳誠は
いずれも西域に使いしたことがある
私など遅れて訪ね来た旅人にすぎない
カシュガルの香妃陵には
花々や珍奇な果物が所狭しと供えられ
仰ぎ見れば あなたは美しい神話となってい
ウィグルの哲学詩「幸福への智恵」の作者は
まさにあなたの近隣に眠る
さあ、さあ、ともに探求討議しよう
九百年前の聖人の哲学・思想の光を
あの金の蝶、銀の蝶は
ここから飛び立ち
生の意義
愛の秘密
死の選択を解読したのだ

思いをかける我が香妃よ
あなたの幸福と不幸は
いずれも一種の誉れ
探し求めた人の世の最上の品
遠くまた近い
歳月の霊感には間違いはない
心の底から湧き出た激情は
甘酸っぱい波のように
いつも胸の中を徘徊している
世俗の深奥を突き破り
無限に続く智恵の廊下を くぐりぬける者などいない

ユースフの「幸福への智恵」にあるように、
「知識を持つ者が、
いつか世界を獲得する」
「公正で、叡智あり、足るを知り、善を行なう」
あなたのこの八つの真実の語は
身は死んでも生き残り その生命は永遠に続く


「詩人は鳥の一族」とは鄭愁予の言葉
時には群れで時には一羽で空を飛ぶ
私たちは一群の雁のように
近頃天山山脈の南北を飛んだ
だが 三十五年前
私は一人遠くから氷の鏡を眺めていたのだ
一万三千の日夜を耐え
ひたすら待ち続けた
決して貪り欲するのではない
トルファンのブドウやハミの瓜を
クチャの娘たちの一枝の花を
激しく望むのだ
天山の雪蓮を訪ね見たい
四十七の民族の民情風俗を 味わい
心を揺さぶるような大砂漠の雄大な風で
自分を鍛えて
文武にすぐれる男になりたい
堅強な胡楊樹のように
天池の南の坂に根をおろし
香妃の夢の魂を連れ
天に昇って月を抱き
地に潜って石油をとりたい

宇宙を形成する三つの主要な才(材料・要素)
天の時
地の利
人の和の
その含蓄が あなたの
精髄
気質
神韻に集められている
各民族の人々は協調和諧の中に共存している
これは禅の悟りの境地
隠すことのない根本の真実

すでに解脱を得た香妃よ
あなたはもはや遮られることのない
自由の王国に入り
極まることのない大自然の結晶を
心ゆくまで楽しんでいる


天池の雪解け水は
ブドウ溝に沁み入り
石河子に沁みこみ
タリム河に沁みこみ
流れてクルリの香梨に灌ぐ
もともと寸草も育たなかった龍山を潤し
風景を緑に変えた
星や碁石のように分布するオアシスは
次第に生気を増やしている
西王母の桃はお好き?
石榴裙(スカート)のザクロはお好き?
イチジクはお好き?
赤と黒(トマトケチャップと石油)
白と彩(白い棉と色どりの棉)
ホータンの玉(即ち昆岡玉)
あなたはどれもお好き?

霊山・ボクダは
あなたに空に浮かぶ月の鏡を贈った
険しい高山・崑崙は
あなたに雪のように白いハダを贈った
誠実は最大の智恵
純潔な愛は縁に随う
あなたがこの地を好きになったことは
アファンティ(先生)が証明してくれる
あなたは羊を抱いて
駱駝の鈴の音のこだまに聞き入っている

私はあなたのお伴をして
タリムに通じる
沙漠の道路を飛び馳った
果てしないゴビの砂丘が
千軍万馬のように勢いよく奔り 旋回している

天、地、人、夢はみなまるい円
私たちは無限の円の中
無極に向かっている……

張詩剣「香妃夢回」
岩佐昌暲