幻燈

もう遅い、もう遅いのだと。 ―『王女メディア』―

Medea ⒸPiel Paolo Pasolini

対象がなんであれ、私が「嫉妬の念」を抱いたのは今のところ一度だけ。
それは、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の映画『王女メディア』を初めて観たとき。

マリア・カラス演じるメディアが、自分を裏切った夫イアソンへ向け、「もう遅い!」と叫んで物語はぶった切られるように終わるのですが、そのラストに、私、ありえないくらい泣いてしまったのです。

ああ、私が言いたいこと、この映画がぜんぶ、言ってしまった!
私は、誰にも、何にも、嫉妬なんか、したことがなかったのに!

負けた――悔し涙でした。

何を思って生きていたのかローティーンの私。
しかし、もう遅い、とは漠然と考えて生きてはきていたのです、生まれてからずっと。

なんにせよ、すべて、もう取り返しはつかない、そう思わざるを得ないよう生まれついた、それが私の業なのだと、気づかされてしまったのです、イタリアきっての鬼才が描いたギリシア神話に。

もう遅い、もう遅いのだと。