ならだより

2023.8.13 夏の盛りのピアノリサイタル

奈良県御所市に神代の昔から鎮座坐す葛木御歳(かつらぎみとし)神社。
当代の東川(うのかわ)宮司は、一時期廃れかけていたこの由緒正しい古社の中興者。質の良いイベントをたくさん企画され、参拝者の情操へ、絶え間ない波のように投げかけておられます。

右から、葛城山と金剛山。
奈良盆地南西部の御所市は古代豪族葛城氏の本陣です。

御歳神社さんは、旧暦に則し7月30日に夏越の大祓を斎行されます。その名残の茅の輪に、太陽のスポットライトが。これは、美しい!

こちらに初めてお参りしたのは2021年、わずか2年前。葛城氏の勢力版図に生まれ育った私でも訪れる手立てもないほど、御歳神社さんは数年前まで荒れ果て、人々の関心からも埋もれていたのです。

それが、東川宮司のご尽力で、今やこんなに光が木立に燦々とふりそそぐ、みんなが訪れる「ひもろぎ」として再興されているのです。

右手、希望者はどなたでもここで永眠が叶う祖霊社。鏡餅の形をしています。
御歳神社さんは年神様をお祀りします。年神様は、稲の神で正月に山から降りられ、民草にお餅を振る舞われます。これが、お年玉の起源。
だから祖霊社の形も鏡餅なのです。

私と息子。主人が撮ってくれました。
私は垂れ目なので柔和に見えるそうですが、違います。咬みつきますので、お近づきになられませんよう。

息子、拝殿へ振り向き、「風鈴の音が聴こえてくる」と。
拝殿にはたくさん風鈴が吊られ、通年鳴り響いています。
人知を超えて語りかける声とは、鈴の音色が最も近しいものではないでしょうか。

2年前、東川宮司に送っていただいた御歳神社さんのトリビュートアルバムを拝聴したときから、ピアニストの吉田幸生先生の『山霊(やまだま)』に心臓を射貫かれていました。
ライブの機会は何度かあったのですが日程が合わず、今日ようやく満願叶ったのです。

御歳神社さんの社務所、ふだん「まつり香」として薬膳料理や自然食材などの量り売りのお店に間借りされていて、かなり人気があります。
私も2022年の正月にポプリを買いました。ポプリも量り売り、なのです。

こんな間近でピアノの生演奏、素晴らしい。
でもね、どなたか御歳神社さんにグランドピアノを寄贈してくださったらいいな、と、吉田先生の演奏を聴いたら思わずにいられなくなりました。
宮司さんが小さいころから大切にされている想い出のアップライトピアノ、壊れるんじゃないかと。それくらい、吉田先生の演奏、ものすさまじい迫力だったのです。Powerをぶつけるのではなく、空気を生み出すような。
『山霊』は、神が稲光りと地鳴りを引き連れてやってくるようで、怖いくらいでした。

お客は数えていませんが、20名くらいだったと思います。弾き手として、プロの方もいらっしゃいました。
吉田先生にはリクエストにも応えていただき、息子は御歳神社さんの手水舍で見かけたハグロトンボをリクエストの題材に。
とても繊細洒脱な即興曲を披露していただき、息子始め一同、大感激。

ピアノに映る緑は、神の杜の緑。
平安時代初期には朝廷に異議を唱えることも認められた偉大な社。
神代から燃える火を絶やすわけにはいかない。

人を動かすもの、それは「想い」。

『山霊』はピアノを伝って、聴く者の魂を揺さぶり、震い起こす。