5月15日、「奈良芸術短期大学日本画公開講座2022 絵画を体験する 中央アジアの仏教壁画」の「第1回キジル石窟(中国新疆ウイグル自治区)とアフガニスタン(バーミヤーン)」の講義を受けに行きました。
講師は、奈良芸術短期大学日本画コース講師兼京都市立芸術大学日本画研究室准教授の正垣雅子先生。
正垣先生の公開講座『飛鳥で学ぶ』のシリーズが私は以前から憧れで、いつかは学びたいと願っていました。
今年の公開講座は実技ではなく講演で、1回目はキジル石窟とバーミヤーン、2回目はラダック仏教美術、3回目は敦煌莫高窟で、いずれもシルクロードを愛する私には絶対に聞き逃せない内容ばかり。
橿原神宮前駅を降り、久米寺の門前を通り過ぎ、てくてく歩いて10分弱、奈良芸術短期大学へ着きました。
私、実は、10代後半、この短大に進学したかったのです。日本画か染色を学びたかったので。
諸事情から夢は叶いませんでしたが、時を経てこうして縁が結ばれるのは、万感胸に迫るものがありました。
小ぢんまりした可愛い学校で、職員さんは皆さん親切で、私を含めて13名の参加者はご年配の方が多く(私でも若輩)、奈良大学のスクーリングを思い出さずにいられませんでした。
やっぱり生の講義はいいな。
教室のスクリーンを目の前に、しみじみとしました。
キジル石窟がある庫車(クチャ)は、古代シルクロード都市の亀茲(きじ)。
正垣先生は2010年、キジル石窟で壁画保存修復作業に携わられました。
キジルとはウイグル語で赤。先生のスライドに映るクチャの山は本当に赤かった。
鳩摩羅什が生きたころも、山は赤かったに違いない。
明るく会話の弾む先生で、詳細は講演の持ち出しになるので控えますが、ずばり実体験を踏まえた語りに勝るものなし、です。
石窟で足場を組んで作業する際にどこからともなく這い出てくるでっかい蜘蛛に遭遇するのが厄介で、「そいつに触れるとかぶれるので、いかにそいつを巧くかわすか」等、エピソードがどれも底抜けに面白く、先生の話はいつまでも聞けそうで、「私は話し出すと止まらないので」とご本人も認められるほど。
バーミヤーンの渓谷を筑波大学や東京藝術大学の先生方が撮影された映像で眺めているうち、たまらなくなりました。
ああ、遠い昔のバクトリア、玄奘三蔵おっしょさまもお訪ねになられた、無数の壁画で彩られた仏教都市。
バクトリア、私が世界で一番行きたい場所。
ああ、私、バクトリアの空飛ぶ鳥だったかも、前世。
破壊され尽くしたってかまわない。何度でも何度でも生まれ変わるから。
「アフガニスタンの困窮をどうか忘れないでいてほしい」
それが先生の願いでもありました。
上段は、クチャのムザルト河の泥土の上澄みの粒子で作った顔彩。
下段の右端、アフガニスタン原産のラピスラズリを原料とするウルトラマリン。
キジル石窟の壁画には、黄金より高価なウルトラマリンがふんだんに用いられていました。日本の群青より、冷めた色です。
下段の左端2本は日本の顔彩の緑青、孔雀石が原料で温かみのある色。
その右隣がアタカマイト、キジル石窟の顔彩でこれも冷めた色。
シルクロードのオアシス都市の渇いた気候に冷めた色は似つかわしい。
「講義後にも皆さんからこんなに質疑応答で残っていただけて、修復作業に興味を持っていただけて、私も本当に嬉しいです。定員30名なので、もっと広報さんに頑張ってもらいたい」と先生、苦笑。
飛鳥で学ぶ中央アジアの仏教壁画。
すごいな、100年前のシルクロード探検時代、ドイツ探検隊のル・コックがひっぱがしたキジル壁画を修復した先生の講義を聴けるなんて。
私は、私の人生の王道を歩んでいる。
感に堪えなくなりました。