私にとって、最高傑作の大河ドラマは『鎌倉殿の13人』です。
歴代大河ドラマのオープニング曲でも、エバン・コールさんが手がけられた『鎌倉殿の13人』が最高傑作だと思います。
あの夏の数かぎりなきそしてまたたつたひとつの表情をせよ
小野茂樹『羊雲離散』
登場人物すべてが、人生における夏を生きた瞬間の、無限を凝縮させた表情を見せるのです。
もう、最高でした。
工藤祐経
「怖いところだ、この鎌倉は。私が生きていくところではない」北条義時(小四郎)
「ようやくわかりましたか。他に行くところがあるのなら、一刻も早く出ていくことをお勧めします」北条義時(小四郎)
「私にはここしかない」武田信義
「おまえたちはおかしい! 狂っておる!」武田信義
「謀反とは何か! 謀反とは、家人が主人に対して行うこと。わしは一度も頼朝を主人と思ったことはないわ!」
私はNHK大河ドラマは毎年慣例で観るわけではなく、最近では吉沢亮さんの演技が絶品だった『青天を衝け』が久しぶりにグッと来たな~と楽しんで通観できたぐらいで、座頭の小栗旬さんが畢生で臨まれた『鎌倉殿の13人』よろしく、やはり芝居というものは主役に魅力と実力がなければ観られたものではないのです。
ちなみに、それより前にグッと来たのは2016年の『真田丸』まで遡ります。
『真田丸』も『新選組!』もそして2022年の『鎌倉殿の13人』も、台本を手がけられた三谷幸喜さんは、ずば抜けて群像劇が巧い。
「え、私、大河ドラマじゃなく、映画の『ゴッドファーザー』観てる? それも最高傑作のパートⅡ? 小四郎はマイケル・コルレオーネ?」
と、瞬きも不可の、怒涛の骨肉の悲劇。
親父みたいに面倒を見てくれた。感謝している。忘れないよ。
こっちも銃を持っている! 汗水垂らして稼いだ金を、なぜくれてやる!
この辺りで私のことを訊いてみてください。私は、礼は必ずする男だと、わかるはずだ。
ドン・ヴィトー・コルレオーネ『ゴッドファーザーⅡ』
味方は近くに。敵はもっと近くに。
この世にひとつだけ確かなことがある。歴史もそれを証明している。人は殺せる。
殺すのは、敵だけだ。
マイケル・コルレオーネ『ゴッドファーザーⅡ』
本拠地の信濃を目指した木曽冠者義高、しかし、その方面には当然、追手が待ち構えている。
それでもどんなにか帰りたかっただろう、生まれ育った故郷へ。
木曾義仲、亡き父との想い出にあふれた、故郷へ。
子どもに等しい少年の命の取り合いであるこのエピソード、見るのもつらかった。
そう、命の取り合いこそ、この時代。
小四郎は、無念の死を遂げた兄・三郎の、呪いのような願いを叶えるために生きたのかもしれない。
トロイア戦争の発端であるヘスペリデスの黄金の林檎のような、源氏の棟梁という貴種を坂東へもたらした兄の、その夢か悪夢かを引き継いだか、もしくは取り憑かれたのかもしれない、弟は。
源頼朝
「坂東の田舎者に頭など下げん!」北条宗時(三郎)
「西から来たやつらの顔色をうかがって暮らすのは、もうまっぴらだ。坂東武者の世を作る。そして、その天辺に北条が立つ!」源義経
「経験も無いのに、自信も無かったら、何もできない。違うか」北条時政(四郎)
「では、自信をつけるには何がいるか。経験でござるよ」後白河法皇
「こういうのが大好きじゃ……!」源範頼(蒲殿)
「もう、結構でございます」梶原景時
「刀は、斬り手によって名刀にもなまくらにもなる。なまくらで終わりたくはなかった」運慶
「おまえ、悪い顔になったな。だが、まだ救いはある。おまえの顔は悩んでいる顔だ。己の生き方に迷いがある。その迷いが救いなのさ。悪い顔だが、いい顔だ」畠山重忠(次郎)
「戦など、誰がしたいと思うか!!」北条義時(小四郎)
「次郎は、決して逃げようとしなかった。逃げるいわれがなかったからです。所領に戻って、兵を集めることもしなかった。戦ういわれがなかったからです。次郎がしたのは、ただ己の誇りを守ることのみ」和田義盛(小太郎)
「俺は羽林が憎くてこんなことをやったんじゃねえんだ!!」源実朝(羽林)
「わかっている! 義盛、おまえに罪はない!」のえ(伊賀の方)
「あなたには無理、私のことなど少しも見ていなかったから。だから、こんなことになったのよ」三浦義村(平六)
「これから先も、三浦が支える」北条義時(小四郎)
「元はといえば、伊豆の小さな豪族の次男坊。その名を、上皇様が口にされるとは。それどころか、この私を討伐するため、兵を差し向けようとされる。平相国清盛、源九郎判官義経、征夷大将軍源頼朝と並んだのです、北条四郎の小倅が。……面白き人生でございました」北条政子
「この世の怒りと呪いをすべて抱えて、私は地獄へ持っていく」
私は鎌倉の人びとが好きです。
私も小四郎のように、ここしかない、ここしかないのだから。
逃れられない、逃れない、ここで生き抜くしかないのだから。